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「じゃあミンギュくんはお鍋見ててくれる?」
「わかりました」
「A、あんたもテレビばっかり見てないで手伝いなさい」
『…ミンギュがやってるじゃん』
「ミンギュくんにやらせてどうすんのよ、お客様なのよ?」
「いや、料理するのは好きなので気にしないでください」
「全く、もうお昼なのにスンチョルもまだ寝てるし…あんたたちって子は…」
「あはは」
あはは。全然面白くないんですけど。
実家に戻ってきてまで家事なんかしたくない。なんのために帰ってきたと思ってるの。
確かに年越しのために色々とお手伝いはしてきたけど、今年は私よりデキるミンギュがいる。
私が家に帰ったらすでにミンギュはエプロンをしていて、母と仲良くキッチンに立っていた。エプロン姿も久々に見たな、と思ったけどそれ以上に家の中でも気を緩めることができないこの現状にげんなりしていた。
ミンギュはいない、この家の中にはいない、そう言い聞かせて視界に入らないように過ごすしかなかった。
リビングの大きなソファに寝そべってテレビを見ていれば、後ろのキッチンから2人の楽しそうな声。私の母とはウマが合うらしい。付き合っていた頃も、私の母と勝手に連絡を取り合っておかずを持って来たりしてたっけ…
「…A、起きて」
『んん…』
「もうご飯の時間だよ、いつまで寝てるの?」
『え…?』
いつの間にか眠っていたらしい。気が付いたら自分の部屋の天井と、私を覗きこむミンギュの顔が見えた。
「もう準備はできてるよ、起きれる?」
『うん…』
「はは、Aの寝顔久々に見ちゃった」
『やめてよ』
「ソファで大きく寝てるのが悪いんだよ?」
笑いながら私の頭をくしゃりと撫でる。やめてほしい。
『そうやって気軽に触らないで、』
「…ごめん、」
『起こしてくれてありがとう、じゃ』
「A…」
ミンギュは元々こうやって人との距離を縮めるのが上手いけど、私はこれ以上仲良くするつもりはなかった。一年前はあんなに大好きだったのに、不思議。
本当に不思議。私ってこんなに冷たい人間だっけ?
目の前に座ってご飯を食べている彼は、私が大好きだった人で、黙っていれば高校生に見えないくらいかっこいいのに、大きな口を開けて子どもみたいに笑う。左利きで、ちらっと見える犬歯が犬っぽくて、
≪好きだったなあ≫と、ふと考えてしまう。
「…A?俺の顔に何かついてる?」
『…っえ、』
「だってずっとこっち見てる」
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飴吐柚璃(プロフ) - オリジナルフラグ対象作品ではないため、オリジナルフラグをお外しください。 (2016年9月23日 15時) (レス) id: dd5e2ba253 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:貝柱 | 作成日時:2016年9月22日 13時