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『ギター弾くんでしょ、大切にしなきゃ』
「Aちゃん…さっき僕が言ったこと覚えてる?」
『えっ?』
「僕だからいいけど、誰でもこんなことしちゃだめだからね」
『え?こんなこと?』
「そう、こんなこと、」
ぐっと手を握り返され、両手を包まれる。真っ赤なジスくんの手は思っていた以上にごつごつしていて、大きかった。
お互い包まれた手を見つめる。包まれた手の甲にどんどん雪が積もっていって、ここままじゃだめだと気付く。
大通りで手を握り締めて見つめあうだなんて、こんなのただの変な人たちだと勘違いされてしまう。
先ほどからすれ違う人の視線がいつもより多いような、そんな気がしてきた。
『あの、ジスくん…』
「ん?」
『わかったから、手離して…?』
「いやだって言ったら?」
『えっ?』
「…ごめん、少しいじわるしすぎたね、」
『いじわるだ…』
「ごめんてば、」
『もう…、あ、あ!タクシー!空いてるっぽい!乗ろう!』
舗道脇で手を上げタクシーを止める。良かった、乗れそうだ。
停まってくれたタクシーに乗り込もうとした瞬間、腕を掴まれる。
「ヌナ、待って」
『は?え、』
「俺が乗る」
『いやちょっとミンギュ…?ジ、ジスくんは…』
「僕は別のタクシーで帰るから…、はい、これはタクシー代」
『え?ちょ、ちょっと…』
「Aちゃん、今日は楽しかった。ありがとう、これからも変わらずよろしくね。プレゼントは、大切に使うからね。」
『ちょっとミンギュ、あんた何して…』
「…」
『ジスくん!』
「…ミンギュと仲良くね、ちゃんと真っ直ぐお家へ帰るんだよ」
『いや、ちょっと……』
動き出したタクシーとこの状況をうまく飲み込めず、身体が強張る。
隣にはミンギュが座っていて、あっさりと私の家までの行先を運転手さんに伝えた。
掴まれた腕も、いつの間にか手を握られていた。
『ちょっとミンギュ…、どういうつもりなの』
「ヌナこそどういうつもり?」
『ジスくんの誕生日を祝ったんです』
「あんな人気の多い道端で手なんか握っちゃって、付き合ってもいないくせに」
『…ミンギュには関係ないでしょ』
「ある」
『何言ってんのよ…』
「……俺だって、ヌナとこうして手を握りたかった」
『はぁ……』
「ごめん…、最初は人違いかと思ったんだけど、よく見たらヌナだったし…焦った」
あ、垂れ下がった犬耳、久々に見えた気がする。
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飴吐柚璃(プロフ) - オリジナルフラグ対象作品ではないため、オリジナルフラグをお外しください。 (2016年9月23日 15時) (レス) id: dd5e2ba253 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:貝柱 | 作成日時:2016年9月22日 13時