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『ふぅ…すいません、ありがとうございました!帰ります。』
そう言って少し背伸びをして深呼吸して、深澤さんに帰宅を促そうとする。
すると、先程まで穏やかな表情をしていた彼が、急に険しい顔になって辺りを伺う様子になる。
深「…ちょっと待って。
何かの妖?の気配が……
急に幾つも増えだした?」
『え…』
深「ちょっと他の奴らも呼ぶね。」
そう言って深澤さんが少し集中して黙り込んだ。
と思うと、瞬く間に周囲の太い樹木の幹の部分から目と口のような配置で穴が浮き出てきた。
虚ろな表情をした…ムンクの叫びのような顔をした不気味な樹木が、口の部分から何かを吐き出し始めた。
根っこの部分を足のようにして操る、小さくて半透明な樹木の形をした幽霊?妖?をポコポコと吐き出してくる。
それらも同じように虚ろな顔をしていた。
ちょこちょこと私たちの周りを動き回る様子はパッと見少し可愛くも見えてしまうけど。
虚ろな表情を一寸も動かさず、統率された一糸乱れぬ動きをする様はやはり不気味さを拭えない。
深「俺あんまり戦闘力は強くねぇんだけどな…」
伝達が終わった様子の深澤さんは、少し困ったような苦笑いを浮かべたけれど
私に背を向け妖怪たちとの間を守るようにして立ちはだかると、手で何かの印を結ぶような動作を行った。
すると目の前に紫色の火の玉が幾つも浮かび上がり、ボボボッと燃える音と共にいくつかの小さな木の妖が消えていった。
『これで強くないんですか?十分凄い気がするんですけど…!』
深「ふはっ、ありがと。
でも俺一人じゃ全然太刀打ちできねーわ、やっぱり。」
太い樹木からは未だにゾロゾロ妖が吐き出されていて、そいつらの数は減る気配がないどころかやはり増殖していく。
そしてそいつらは直接攻撃してくることはないけれど、虚ろな口から「シュウゥゥゥ…」と微かな音が聞き取れたかと思うと
何となく少しずつ、体から力が抜けて体が重くなっていく感覚がする。
深「……っく!マズイ。
妖力を吸われてる。」
『妖力が…!?
あの、私も何か力が抜ける感じがするんですが…私は妖ではないのに…?』
深「Aちゃんの神通力も、妖力も関係なく吸われてるみたいだな…。
どうもこいつら、妖というより樹木の精霊とかに近い存在みたいだ。
クソ、そろそろ皆着いてくれ…」
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作者名:fu-ma | 作成日時:2022年5月27日 11時