《完結》 Maison de tempete 【ars】 (ページ9)

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『こんにちは』

「いらっしゃい、Aちゃん」

美容室に向かうと、迎え入れてくれたのは、雅紀さん。

「今日はどうしますか？」

『カラーと、毛先にパーマをかけたいなーって』

「了解、色はどうする？」

『あの、この前雅紀さんが見せてくれたのがかわいかったな、って思います』

「あーあれね！Aちゃんにきっと似合う！って色ね」

待ってて―って雅紀さんが離れると、

　「よ！」

なんて来たのは、お兄ちゃん。

『お疲れ様』

　「A今日は何すんの？」

『カラーとパーマだよ』

　「おーいいじゃーん」

お兄ちゃんは、見た目がちゃらちゃらしてて、

美容師によくいる若い人、って感じ。

だけど雅紀さんは、

「ちょっとーシュワちゃん！俺のお客さん取らないでよー(笑)」

さわやかな装いで、洗練された、かっこいい大人な感じ。

　「そんなことしません、先輩」

「あひゃひゃ、分かってるって」

大人っぽいのに、中身は少年みたいで、

ちょっとかわいいとか思っちゃうの。

母性本能をくすぐる、ってやつなのかな。

黒目がちな瞳、

今は真っ黒の髪の毛は、

少し茶髪でもすっごくかっこいい。

雅紀さんに髪を触られるたびにドキドキしながら、

今日も髪型がおしゃれに変わっていく。

『わ...』

「ん、上出来！」

かわいい！って毎度のことながらはしゃいでしまって、

だけど雅紀さんはよかったって笑ってくれて、

くすぐったい気持ちになりながら、次の予約を取る。

「あ、そういえば、」

『？』

雅紀さんが、急に声を上げたから、

見上げると、

夏祭り、行くの？って悪びれもなく聞かれる。

...ほんとは、雅紀さんと行きたかった。

『行きますよ、』

だけど現実は、

ゴリゴリ押されてる同期の男の子に誘われてて、

行くことになってる。

もちろんほかの子も誘って、何人かで行くけど。

「浴衣？」

『の予定です』

「そっか、じゃあその日、ヘアメイクしてく？」

まけとく！って笑顔で言われたら、

『お願いしますね』

って、言うしかないじゃない...。