《完結》 Maison de tempete 【ars】 (ページ20)

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・N ページ20

『二宮！』

繁華街の名前がついた駅の、

地下への入り口で待っていたら、俺の苗字が呼ばれて、

顔を上げる。

「おかえり、A」

『ただいま』

んー疲れたー、って腕を伸ばす彼女は、

世界を駆けまわってたCA。それももう終わりだけど。

「寂しい？」

『ん？』

「仕事から離れんの」

『まぁ、長いことやってたからね...』

貯金は通貨が値下がりしたら両替するーなんてのんきなことを言って帰ってきた、

俺の、奥さん。

「なんか足りないものありそう？」

彼女は長いこと向こうで生活してたから、

結婚の承諾もとんとん拍子に行って、俺の住んでるメゾンに同棲することになった。

『多分大丈夫』

「なんかあったら言ってよ？」

『いうと思うよ？』

「ま、大丈夫そうだね(笑)」

彼女の苦手なものは料理、だそうで。

男の夢である手料理を食べれることになるのは、
もう少し先のみたいだ。

『二宮―？』

「てかさ、前から思ってたんだけど」

『？』

彼女は不思議な顔をして俺を見つめる。

「いつまで俺のこと二宮って呼ぶわけ？お前も二宮になんのに。」

確かに、って顔をした彼女は、

ちょっとうつむいて、

顔を上げて、

『和？』

って昔みたいに俺のことを呼んだ。

「ん？」

『ふふ、好きよ』

彼女の笑顔を守るのは、この先俺だけで十分だ。