兎の国のおはなし (ページ5)

今日:1 hit、昨日:6 hit、合計:2,626 hit

４ページ5

「えっと…初めまして」

伏目がちになってる彼女を少し屈んで覗き込んで声をかけると、分かりやすくビクッと体が跳ねた

「あ！ごめんね！驚かすつもりは………」

、と早口になってきたところでついさっきの隼さんの言葉を思い出した

「初めまして、俺の名前は夜っていいます。君に会えるのを楽しみにしてました。」

ゆっくり、はっきりと話ながら覚えたての手話を一緒にしてみた
すると目の前の彼女は驚いた顔をしたかと思うとあわあわと手を動かしだし…

『手話、できるの？』

思えば読み取りは初めてだったので合ってるのか多少の不安はありつつ、会話ができるチャンスだと思い続ける

「君に会う為に、少し覚えたんだ」

あれ？

先ほどまであわあわと取り乱していた彼女が少し顔を強張らせた

よくよく考えると君と会う為にって気持ち悪かったかもしれない、と思うが今更取り消すことは出来ない
自分は安全だよアピールして気を許したとこ出ろそのまま無理やり…とか悪い人だったらするかもしれないしな、やってしまった

「えっと…君の名前は？」

『A』
小さく指文字で記された名前をゆっくりと復唱した

「A、いい名前だね
そうだ…立たせっぱなしでごめんね、そこの椅子座って？」

少し離れた場所にある椅子をひょこひょこと取りに行き、引きずらないよう気を付けながらりんこのいる方へ向けると…
彼女の目線は俺の右足にあった
彼女の話は聞いていたので、てっきり俺のことも話してるのかと思っていたが聞いていないような感じだ

『痛い？』
「痛くないよ」
『なぜ？』

この〝なぜ″は恐らく経緯を聞いてるのだろう

俺は彼女のことを知っているのに、彼女は俺のことを知らないのもフェアじゃな気がするので話そうか

せっかく椅子を出したのだから、と彼女を座らせ、自分も向かいに椅子を出して座った
簡単な単語は覚えたが、きっと長々と話はまだ出来ないなと思い、紙とペンを用意した
それから俺が元武官だったこと、少女を庇って足を怪我したこと、そしてその後遺症が残ってしまったこと、文官になって今は天職だと思ってること、外に出るのは人に迷惑を掛けてしまうのであまり出ていないこと
Aはただ俺の書く文字を目で追っていた