七話 ページ7
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「とりあえず、自己紹介をしようか。
いつまでも君、貴方、じゃ困るし」
『そうですね…じゃあ私から』
「いや、俺から言うよ。信頼して貰えるようにね」
『…?既に信頼してます』
「はぁ…」
大丈夫だろうか、彼女。
思わず溜息をついた。
怪しい人にはついて行っちゃいけない、って教わらなかったのかな…
名前を教えることで信頼を得ようとしたけど、それ以前の問題だった。
「…まぁ今はいいや。
俺は相川真冬、二十七歳。さっきも言ったように、音楽関係の仕事をしてるよ。
君は?」
『小鳥遊A、二十一です。
「えっ、珠羅大学?あの、偏差値が高い?」
そんなに頭が良い大学に行っているのに、親が家を追い出すなんて、有り得るのかな…自慢の娘のはずなのに。
あと、だったらなんで危ない人の判断ができないんだろ、この子…
『…勉強しかないから…凄くなんてないです』
そう言って、震える手でスカートの裾を握り締めた。
癖、なのかな…
無意識に頭に手を伸ばして気付く。
…流石に、出会って一時間位の人に頭を撫でられるのは嫌だろう。
「…一つでも取り柄があることは凄いことだよ。それに、君には歌とギターがあるでしょ?」
『……ありがとう、ございます。そう言って貰えると嬉しいです』
下手な笑顔を浮かべて小鳥遊Aちゃんは笑った。
…これが、家出の原因なのかもしれない。根拠はないけど、ふとそう思った。
『相川、さん』
「真冬、でいいよ。Aちゃん」
近所の人に疑われたら怖いし、念の為名前呼びの方がいいだろう。
敬語で苗字呼びは、彼女にしては距離がありすぎる。
『じゃ、じゃあ真冬さん。不束者ですがよろしくお願いします!』
「うん、こちらこそよろしくね」
手を差し出すと、Aちゃんは恐る恐る手を握った。
…なんで男の家に泊まることは大丈夫で、握手は警戒するんだろう。
『…あの、真冬さん。離して貰っても…』
「駄ー目。手に痕付いちゃってたでしょ?
保冷剤があったはずだから、それで冷やそ」
『え、あ…この位大丈夫です』
「いいからいいから」
久しぶりに“真冬”って呼ばれて、少しだけ嬉しかった。
まふまふってあだ名も好きだったけど、やっぱり真冬って呼ばれるのが一番好きだなぁ、なんて。
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作者名:鈴里風夢 | 作成日時:2019年2月2日 17時