二十七話 ページ27
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『由菜ちゃんに言われて気が付いたんです。
私が皆の足を引っ張っていたから、バンドを抜けさせられたんだって』
「…いや、あの子の言うことは信用しない方が」
クスリと笑われる。嫌悪感が目に見えるのだろう。
隠すつもりはない。はっきり言って、彼女は好きになれない部類。
『まぁ、由菜ちゃんは信用出来ないですが…私自身、こんなバンドメンバーがいたら、面倒だって思いますから』
『それに…あまり、抜けさせられた時も悲しくなかったんです』
「え?」
目を伏せて、自嘲的に笑う。
掠れた声でぽつりと呟いた。
『私は…居場所が欲しかっただけ』
『家に居場所がなくて、どこかに居場所が欲しかった。
Escapismに思い入れがあった訳ではないって、抜けた後に気付いたんです』
「…」
『真冬さんの家に転がり込んだのも…
笑顔で「おかえり」って、出迎えてくれる人が欲しかったから。
…利用していたんです。真冬さんの優しさを』
最低でごめんなさい、と眉を下げて歪な笑顔を浮かべる。
…違う。俺が見たいのは、そんな顔じゃないのに…
『…もう一つ、大きな隠し事をしているんです』
「え?」
おもむろに立ち上がり、Aちゃんはカバンの元に歩いて行く。
外側のポケットを、ゆっくりと開きながら…
『……真冬さんの家に来て二週間程経った時、気が付いたんです』
ポケットから、手を震わせながらある物を取り出した。
『…っ、本当に、“顔も見たくない”らしい、です』
「!」
取り出したのは、通帳らしき物。
両親が、勝手に入れたってこと…?
唇を噛んで、必死に涙を堪えている。
『っ…居場所を望むことって、悪いことなんですか…っ?』
「Aちゃん!」
見ていられなくなって、駆け寄ってAちゃんを抱き締めた。
堰を切ったように、ボロボロと泣き始める。
『一ヶ月経てば…っ電話くらいしてくれると思った!
出来損ないでも!心配してくれるって…っ』
「……止めてよ」
『私だって、妹みたいな才能が欲しかった!
両親に…褒められたかった…っ』
「…もう、いいって」
『誰も私を必要としてくれないのにっ…居場所がないのに!
私は、“何の為に生きているんだろう”って…っ』
「Aちゃん!」
肩を掴んで叫ぶと、涙を目に溜めたAちゃんが、目を見開いた。
もう…それ以上は言わないで。
「…俺が、
俺が、Aちゃんの居場所でしょ!?」
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作者名:鈴里風夢 | 作成日時:2019年2月2日 17時