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十八話【自己紹介】 ページ18

「…私の事、知ってるのかい?」


『あ』



社内の人間の目が、全て私に向けられている。
流石に、『リストで見た』とは言えないだろう。

…最悪だ。特にこの男、太宰治の鋭い目線が痛い程刺さってくる。


無言でいると、眼鏡を掛けた、如何にも真面目で口煩いであろう男が目の前に来た。



「俺は国木田独歩だ
取り敢えず座れ」


『はぁ』



セーラー服を着た少女に入れて貰ったお茶を一口飲み、ふぅ…と息を吐いた。

…視線を感じる。

横を向くと、太宰治が私の顔を見ながら目を輝かせていた。
そして、跪いて私の手を取り、胡散臭い笑顔を作った。



「君…先程は顔が善く見えなかったけど、とても美人じゃないか…!
どうか私と心中してはくれないだろうか?」


『は?』


「…相手にするな。こういう奴なんだ」



心中?二人で死のうとする、あれ?
…何だか、太宰治が期限無しである理由が分かった気がする。



「私は君みたいな美人と心中したいのだよ…
検討してくれ給え」


何かに縋るかの様な目で、私を見詰めてくる。
口が勝手に動いていた。



『…別に、いいけど』


「は?」


『別に、心中してもいい』



そう云うと、驚いた顔をして目を輝かせた。



「ほ、本当かい!?」


「巫山戯るな、唐変木!
お前も此奴を調子に乗らせるような嘘をつくな!!」


『嘘じゃない
只…私は死なないけれど』


「へ?」



白い髪の少年が、不思議そうな顔をした。

『天使だから、死のうと思っても多分死ねない』

…なんて、云わないけれど。



「じゃあ心中しようじゃないか!」


「お前は黙ってろ!!
ゴホン…そう云えば、小娘の名前を聞いてなかったな」



あぁ、云うのを忘れていた。

コホン、と咳払いを一つして、自分の名前を云った。



『No.1637』


「…?」


『私の名前は、No.1637』


「…巫山戯るのも大概に…ッ」


「こ、孤児院出身…とかですか?」



白い髪の少年が恐る恐る云ったのに対し、首を横に振った。
…其れ、自分が孤児院の人間だと宣言している様なものだけど。



「小娘…大人は揶揄うな」



国木田独歩が、頭に手を当てながら呆れた様な表情をする。
…呆れたいのは私の方だ。此処で嘘をついてどうするんだ。



『私は小娘じゃない』


「?小娘だろうが」



…その前提が違うのだと云いたい。

思わず口を開いた。




『私は、No.1637の天使』


『太宰治を救済しに来た』

十九話【救済方法】→←十七話【既視感】



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作者名:鈴里風夢 | 作成日時:2018年5月7日 18時

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