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Aはゆっくりと振り向いた。
暗さにもうすっかり慣れたその瞳は、結弦の姿を捉えるのに決して時間を要さなかった。
両者の間に、ほんの一瞬、沈黙とも静寂とも言い難い不思議な何かが流れる。それはギターの音色の創り出した余韻だろうか。
「まぁーだ起きてんの」
微かなオレンジ色が灯るだけ部屋の中。壁に右肩を軽く持たれ掛けさせた結弦が、子供を窘めるかのような口調でそう言った。Aの表情は驚きから笑顔と変わっていく。
Aはギターを脇によけ、ベッドから降りて小走りで結弦に駆け寄った。
「おかえりなさい」
澄んだ声に温かい声が応じる。
「ただいま」
つい先日まで世界を股に掛けて戦っていたとは思えぬ柔らかさがある。
結弦は自分より一回り小柄な身体を優しく包んだ。小さな頭に少し鼻をあてると、シャンプーが微かに香る。
僅かに震えた空気は、ふっと温かいものへとすり変わった。
しばし2人はじっと動かずに互いの体温を分け合うように寄せ合っていた。Aは黒いジャージの裾を左手できゅっと掴む。結弦はそれに応えるようにその肩を引き寄せ、さすった。
「明日…いや、今日か」
穏やかな笑みを浮かべ、結弦が静かに口を開いた。
意味をはかりかねるAに結弦は続けて言葉を紡ぐ。
「2年前の今日だよ。Aとお付き合いを始めたのは」
Aは少し目を見張って記憶の糸を辿った。
…確かに今日だ。彼と交際を始め、早2年。ちなみに出会いは更にその1年前に遡る。
結弦に心中を告げられた時、Aは己の耳を疑ったものである。自分の手には届かない異世界に生きる人だということはAも知っていた。
しかし2年前の今日を境に、叶うことはない人だと、ただひたすらに自分に言い聞かせていた日々が一転したのである。
「また1年よろしく」
そう呟いて結弦がそっとAの身体から腕を解いた。Aはふわりと笑って結弦に向き合う。
「こちらこそ」
今年もまた日頃の感謝を込めた会釈が交わされた。記念日に関しては結弦の方が律儀だったりする。
さて、と結弦は部屋を見渡しながら垂れた前髪をかき上げる。
「俺シャワー浴びて来る」
「じゃあ私もリビングに」
今更1人で寝られない、と言いたげにAも小さく伸びをした。灯を消し、2人してリビングへと向かう。
Aからタオルや着替えを受け取った後、結弦はバスルームへと姿を消した。
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suzuran(プロフ) - 心菜さん» 嬉しいお言葉ありがとうございます！ もうそろそろ現地入りでしょうか？ いよいよシーズンが本格的に始まるんですね。毎日そわそわしてます。フリーが取り上げられがちですけれどショートも神プロに違いない！ (2018年9月20日 8時) (
レス) id: 4f2407ab74 (このIDを非表示/違反報告)
心菜(プロフ) - とっても優しくて、素敵なお話をありがとうございます。オータムオータム前のドキドキが癒されましたー(´ヮ`) いよいよですもんね。 (2018年9月19日 15時) (レス) id: 15da2c977a (このIDを非表示/違反報告)
suzuran(プロフ) - 鹿さん» 公開しようか迷っていたので、綺麗な文章だなんてとても嬉しいです！ありがとうございます。もう少しドキドキ感があったら良かったかなとも思ったのですが、こういう世界観もアリということでｗ (2018年9月18日 21時) (レス) id: 4f2407ab74 (このIDを非表示/違反報告)
鹿(プロフ) - 何気なくポチっと読んでいて、誰の作品かなーと思ったらsuzuranさんでしたか＾＾ なんだかすごくきれいな文章というか…。久々の癒しをありがとうございます！ (2018年9月18日 16時) (レス) id: 73ad5e2308 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：suzuran | 作成日時：2018年9月18日 0時
