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ガチャリ。
数日ぶりのその音に結弦は心做しか口元を綻ばせた。
1歩脚を踏み入れれば、我が家の匂いが結弦をふわりと包む。
機内で見た天気予報に傘のアイコンが並んでいた時は、どうしたものかと慌てて鞄から折りたたみ傘を漁ったものだが、無事帰宅出来た。
結弦は可能な限り余計な音をたてまいと細心の注意を払って家にあがる。
まずは濡れてしまった荷物を拭かなければならない。だが、タオルを求めて洗面所に直行しかけたその脚は逆戻りした。
靴棚の上に洗濯したてのタオルがきちんと畳まれていたのが目に入ったからだ。側にはウェットティッシュも添えてある。
Aらしい、と結弦は微笑を浮かべた。
ありがたいことにスーツケースのタイヤもすぐに拭けそうだ。
…でもまずは。
結弦は羽織っていたジャージをそのタオルで軽く叩いて水滴を拭った後、荷物をその場に残し寝室へと向かった。
彼の脳裏に浮かぶのはいつだってスケートか彼女か、だ。
だが、結弦がドアノブに手を掛けた時、耳にゆったりとした静かな旋律が届いた。空耳まで聞こえるようになったのかと苦笑しつつも、まさか、と思い、もう一度ドアに耳を近づける。
……間違いなかった。確かにそれは慣れ親しんだ彼女のギターだ。
結弦の視線が無意識のうちに腕時計へと注がれる。もう夜中……いや、明け方近い。
驚きやら嬉しさやらで忙しい頭の中を落ち着かせるべく、ドアは開けずに、結弦はもう一度Aの奏でる旋律に耳を傾けた。
時の流れを忘れるような優しく静かなジャズ調の曲。
世界選手権の記憶が走馬灯のように浮かんでは消え、それと同時に今シーズンも漸く終わったのだという改めての実感が疲れと達成感の入り交じる身体を走っていった。
少し長く息を吐いてから、結弦はずっと手をあてていたドアノブをゆっくり且つ静かに回した。
曲はまだ止むことなく響いている。つまりAは気づいていない。結弦には背を向けたグレーのパジャマ姿が軽く左右に揺れながら指を動かし続けている。
明るい部屋を想定していた結弦の瞳はオレンジの微かなライトだけが浮かぶその部屋に少し見開かれたが、すぐに心地よい音色に誘われて瞼は伏せられた。
しばし、その甘美な調べにを恍惚として聴き惚れる。
このままベッドに身を預けたら微睡んでしまいそうだとさえ思った。だが、そうする訳にも行かないので、結弦は瞼を上げ、Aが自分に気がつくように、後ろ手で再びドアノブを鳴らす。
ギターが止まった。
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suzuran(プロフ) - 心菜さん» 嬉しいお言葉ありがとうございます！ もうそろそろ現地入りでしょうか？ いよいよシーズンが本格的に始まるんですね。毎日そわそわしてます。フリーが取り上げられがちですけれどショートも神プロに違いない！ (2018年9月20日 8時) (
レス) id: 4f2407ab74 (このIDを非表示/違反報告)
心菜(プロフ) - とっても優しくて、素敵なお話をありがとうございます。オータムオータム前のドキドキが癒されましたー(´ヮ`) いよいよですもんね。 (2018年9月19日 15時) (レス) id: 15da2c977a (このIDを非表示/違反報告)
suzuran(プロフ) - 鹿さん» 公開しようか迷っていたので、綺麗な文章だなんてとても嬉しいです！ありがとうございます。もう少しドキドキ感があったら良かったかなとも思ったのですが、こういう世界観もアリということでｗ (2018年9月18日 21時) (レス) id: 4f2407ab74 (このIDを非表示/違反報告)
鹿(プロフ) - 何気なくポチっと読んでいて、誰の作品かなーと思ったらsuzuranさんでしたか＾＾ なんだかすごくきれいな文章というか…。久々の癒しをありがとうございます！ (2018年9月18日 16時) (レス) id: 73ad5e2308 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：suzuran | 作成日時：2018年9月18日 0時
