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Aside
翔太くんを岩本先生に任せ、向井くんと病室を出た。
部屋からは、翔太くんが泣きだした声が聞こえる。
向「…手、早く冷やしましょ」
A「あ、うん」
向井くんについて、廊下を足早に進む。
ちらちら振り返りながら私がちゃんとついてきていることを確認する向井くん。
彼が向かったのは、休憩室のシンク。
この時間は人がいないことを見越して、ここにしてくれたのだろう。
向井「はい、流しますね」
自分でできるよ、って思ったけれど、今はなんだかその優しさが沁みる気がして、素直に従った。
向井「熱湯だったわけじゃないし、痕にはならんと思いますけど…。でも熱いもんは熱いですよね」
A「そうだね。でもその瞬間は熱いよりも焦りが勝ったなあ…」
翔太くんが拒否反応を示したとき、真っ先に浮かんだのは「今、私はどう動くべき？」という自分への問いかけだった。
とりあえず興奮状態の彼から距離を置いて、彼にとって自分が恐怖対象ってことはわかっていたから部屋から出たけど。
……これが最善だったのかは、正直わからない。
「冷静で凄いですね、Aさんは。」
流れる水をぼうっと見ながらそんな逡巡をしていた私に、向井さんの声が降りかかった。
A「…えっ？」
向井「俺やったら味噌汁かかった瞬間、驚いて声出てたかもしらんし。というか実際”あっ”って言ってしまったし。変に慌てなくて、すごかったです」
A「ありがとう。でも向井くんだって十分冷静だったよ？大丈夫。」
私は何も知らずに部屋に入ったけど、スケッチブックに描かれていた絵もなかなか衝撃的だったし。その絵を見たときは向井くんも相当驚いただろう。
向井「ありがとうございます。とりあえず…明日からまた方針考えなですね」
A「とりあえずしばらく近づくのは無しかな。私と美桜はドアのところまでが限界だろうねぇ…」
シンクのふちに置かれた向井くんの手が、ぎゅっと空気を掴む。
向「俺が悔しいですよ。こんなにさくら組の先輩方はいい人たちで、優しい目をしているのにそれをしょったくんは受け取れないなんて。しょったくんをそうさせた過去の環境に腹が立ちます」
その声は心なしか少し震えていた。
向井「っ、すみません」
A「ううん、謝るところじゃないよ。素直な感情を出せるところは向井くんのいいところ。」
水にさらしていない方の手で、ぽんぽんと腰をさすった。
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作者名：シルク | 作成日時：2023年9月23日 22時
