�� ページ38
向井side
いぬたまごだけで終わるかと思いきや、まさか絵をきっかけにしょったくんが胸の内を話すことになるとは。
でも照兄が来たときでよかった。照兄なら子どもの言葉にならない感情に上手に寄り添えるから。
岩「翔太、話してくれてありがとな。翔太の思ってること、よーくわかったよ」
翔太「…。」
岩「ねえ、翔太？」
照兄がベッドに腰かけ、しょったくんを抱き寄せて、顔をのぞきこんだ。
そしてゆっくりと話し出す。
こういう時の照兄はすごく優しい声だから、俺まで安心して話に耳を傾けたくなる。
岩「みーんなそうなんだよ。俺も康二だって人間だから色んな気持ちがある。俺もたまに黒になっちゃうときもあるよ」
翔太「でも黒いのやだよ」
岩「そうだよね。でもね、実は黒い気持ちがあること自体は、別に悪いことじゃないんだ。」
翔太「…」
岩「ただし、黒い気持ちばっかり続きすぎると、翔太も疲れちゃうでしょ？だから、俺たちがいるの。ふっかも阿部も、佐久間も、舘さん、めめにラウ、…さくら組も、もっと言えばここの病院の人たちも。」
翔太「でも、知らない人怖い」
岩「うん、そうだよなあ。怖いよなぁ？」
ーーーコンコンコン
A「夕食、お持ちしました」
向「どうしよ？もう少しあとにしてもらう？」
岩「康二、いいよ。とりあえず配膳だけしてもらおう。朝もいけたみたいだし。」
照兄がそう判断したので、Aさんを部屋に通す。
A「おまたせしましたー、夜ご飯です。」
ベッドに備え付けられたテーブルにはしょったくんの描いた真っ黒いスケッチブックが置いてあったけど、Aさんは特にそれには触れず、トレーをテーブルに乗せた。
しょったくんも照兄が横にいるからか、落ち着いているし、いつも通り大丈夫そう。良かった。
…と思ったその時。
ーーーボフッ
向「あ、しょったくん？」
しょったくんが脇にあったぬいぐるみを、突然投げた。白いそれはコロコロとベッドの下に転がっていく。
慌てて止めようと俺が動き出すか否かの瞬間。
ーーービシャッ
岩「あっ」
照兄が小さく声を漏らしたのと同時だった。
A「…っ」
黙っていたしょったくんが、今度は運ばれてきたトレーを勢いをつけて思い切り押した。
味噌汁がこぼれて、まだトレーに添えられていたAさんの手にかかる。
まだ湯気が立っていたそれをまともに被ったAさんの手は、みるみるうちに赤くなっていった。
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作者名：シルク | 作成日時：2023年9月23日 22時
