�� ページ12
岩本side
ぎゅっとしがみついて、泣く小さな身体をさすりながらふと考えるのは、翔太の両親のこと。
翔太がフラッシュバックを起こすのは初めてじゃない。
特に病院に来たばかりの頃は多く起こしていて夜泣きもひどかった。
でもここ1年くらいは徐々に減ってはきていたし、今回も久々に出ちゃったなぁって感じ。
児相と連携を取りながらわかってきたことだけど、翔太の父親は、翔太の母親と死別した後、女癖が悪くて色んな人と関係をもって家に連れ込んでいたらしい。
翔太を引き取ったはいいものの、父親がそんな生活だから翔太の食生活も安定していなかったし、酒が入っていると暴言を吐いた。
かと思えば普通に優しい父親である瞬間もあったりして、ご近所の人もまさか虐待が行われているなんて気づかなかったと。
奥さんを亡くしたショックで精神的に豹変してしまったという趣旨の説明は聞いたけど、そんなこと言われても納得はできないし許すこともできないよね。
母親の方は詳しいことはわからない。
もっと小さかった頃の翔太が「ママに抱っこしてほしい」って言って寂しがることがあった。
母親に関してはそれ以上の情報はないけど、きっと優しい方だったんだろうなと思う。
阿「お、ちょっと落ち着いたかな」
阿部の声に、考え事の世界から戻ってきて翔太を見れば、一通り気持ちを吐き出したからか、ちょっとすっきりした顔をしていた。
翔太「…また泣いちゃってごめん」
何を言い出すかと思えば、謝ってきた。
こいつ、昔から謝ることだけはめちゃめちゃ上手というか慣れているというか大人びているというか。
これも虐待の影響なんだけどね…
阿「なんにも謝ることないよ？」
岩「そうだよ。別に悪いことしてないんだから。迷惑でもなんでもないからな」
阿「うん、むしろ翔太が一人で苦しむより、頼ってくれた方が嬉しい」
そう伝えると、翔太は眉を下げて困ったようにうなずいた。
翔太「…ありがと」
岩「俺らがついてるからな」
俺らは翔太のママにはなれないけれど。翔太のママが翔太に注ぎたかった愛を、俺らが代わりに注ぎたいって思ってるよ。
もう一度ぎゅっとその身体を抱きしめて、わしゃわしゃと撫でた。
fin.
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作者名：シルク | 作成日時：2023年9月23日 22時
