鈴音 (ページ4)

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「農業体験なんか、やらんでもええのに」

不意にそう呟いたのは仁王くんだった。
どちらかと言えばその意見に同意である私が心の中で頷いていると、真田くんや柳生くんは「いい経験になる」といろいろと語りはじめる。

彼らは賛成派らしい。
なにやら語る彼らを他所に仁王くんは両手で耳を塞いで「聞こえん。なんも聞こえん」と言っている。

「仁王は暑さが苦手だからな。場所は違えどこの日差しの中で農業体験は厳しいのだろう」
「へえ、そうなんだ。仁王くんって暑いの苦手なんだ」
「ああ。だからこうして熱中症になりかけて木陰で休んでいるわけなのだが」
「そういう事情なんだね」

柳くんからの言葉にクラスメイトの新たな一面を知った。
普段関わりがないから知らないのは当然だったけれど、なんとなくイメージ通りだった。

髪の色が白くて、どこか不思議な雰囲気で不思議な口調だし猫みたいなところがある彼だからそういう暑さとか寒さとか苦手そうだと思っていた。確実な偏見だといえばそう。

「Aは暑さは大丈夫なのか？」
「人並みには大丈夫だと思う」
「そうか。覚えておこう」
「え、覚えておくの？なにか役に立つの、それ」
「ああ。いずれ、な」

絶対役に立つことはないだろう。
ただその根拠はないから口にはしない。

相変わらず真田くんと柳生くんによる体験合宿の大切さの話から耳を塞いで聞かないでいる仁王くんはどんどん縮こまっていく。
収集がつかなくなるというのはこういうことを言うのだろうか。

さて、そろそろ教室に戻ろうかとしたところでひとり分の足音がこちらへ近づいてくることに気がついた。
少し小走りで大きくて特徴のある声で「柳せんぱ〜い！！」と呼ぶ声がする。

柳くんが振り返ると同時にひょこ、っと顔を出したのは癖毛の男子生徒だった。
まだ小学生っぽさの残る幼い顔立ちをみるに1年生だと思われる。

「早く戻って来いって伝言っス！！って、なんすかそれ……農業体験合宿のしおり！？え〜！！先輩たちどっか行くんすか！？俺をおいて！？」
「大袈裟だぞ、赤也」
「大袈裟じゃないっスよ！！2年生がいなくなったら強いやついねえじゃん！！ずるい！！俺も行きたい！！」

赤也くんという彼は駄々をこねる子供のようだ。
それを柳くんはうまく交わしながら宥めようとしていた。