【東卍】続・クラスメイトに、【三ツ谷隆】 (ページ3)

今日:1 hit、昨日:0 hit、合計:11,148 hit

※＊ページ3

その日の夜。三ツ谷はAの待つ暗い部屋の扉を静かに開いた。普段なら彼女は起きている時間なのだが、今日に限って寝てしまっているらしい。……いや、眠らされたと言う方が正しいのか。微かに薬品の臭いがする。

そっと彼女に近付く。静かに寝息をたてる彼女はこれから行われることなど何も知らない。何も知らずに、このまま＿＿。

「…………ごめんな」

自分がマイキーを少しでも止められたなら、Aに飛び火がかかることもなかったかもしれない。だが後悔するにはもう遅く、今後の東卍のためにも彼女を殺さねばならないという現実だけが目の前にあった。

……刃物は使いたくない。綺麗なもの程汚したいなんて考えは生憎この場には存在しないから。かといって毒もロープも、水も高所も火も全部彼女の最後には相応しくない。

だから。三ツ谷はそっとAの首に自身の手を添えた。

「……わりぃ……A…………！」

ゆっくりと、でも確実に力を込め彼女の首を強く強く絞めていく。彼女の血の巡りが悪くなっていくのも呼吸が浅くなっていくのも全部掌で感じる。ただただ涙腺が緩んで頬が濡れていく。

＿＿刹那、コトッと彼女の首が力なく傾いた。思わず三ツ谷はバッとその手を離す。……とうとう本当に彼女を殺してしまったしまった、のか？

いや、違う。よくよく確認してみれば、Aはまだ僅かながら息をしている。酸素を取り込むためにちゃんと咳もしている。……彼は殺し損ねたのだ。

「……ハハ、マジかよ…………本当に殺っちまったと思ったのにさ……」

もう手に力は入らなかった。もう、彼女を殺せはしないだろう。だからといってこのまま朝を迎える資格など自分は持ち合わせていない。明日になれば運が良ければ棺、悪ければ黒い袋行きだ。

＿＿だから彼は逃げた。幼少期のあの日以来の反抗だった。

伸びきっていた髪を切って染め、携帯も証明写真も全部捨て去って新調した。無茶だとわかった上で、自身の命も彼女の命も消してしまわぬよう足掻いたのだ。例え縁が切れようとも、生きているならそれで良いと。

逃げて、逃げて、逃げ続けて＿＿

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

……その後のことは知ってるだろ、首にしっかり痕残ってんだからさ。あの頃は我ながら無茶したなと思ってるよ。

ま、今となっちゃ昔話だ。ここから先は全員笑っていられる世界線……。こんな辛気臭ぇ話忘れて、ちゃんと楽しんでいけよ？