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「……寒いですね」
彼女はあのときと同じ言葉を溢した。2回目とは言えど、好きだと確信した今だからか心拍数が上昇する。しかしそれ以上に彼女がちゃんとすがってくれたことが嬉しくて、三ツ谷は少しぎこちない動作で迷わず彼女を抱き締めた。
夏の夜という暑いような涼しいような気候の中、少し震えたAの体温はお世辞にも温かいとは言えず。それだけ待たせてしまったことが申し訳ない反面、自分の腕の中に彼女がいるという事実に優越感が湧く。そりゃ現在進行形で耳は熱いけれど。
彼女の涙が三ツ谷の浴衣を少しずつ湿らせてゆく。それでもいい。彼女が彼だけが知る
「ごめんな……」
「一さんが謝ることなんてねぇよ。オレも変なこと聞いたし、おあいこだろ?」
「……優しすぎるやろ……」
自身の背にまわってきたAの手に応えるよう、巧く加減をしつつ腕に力を籠めた。彼女は恐る恐るといった様子でゆっくりと口を開く。
「私、根っからのオタなの」
「楽しそうだよな」
「否定されたくないの」
「オレが肯定するよ」
「できることいっぱいあるの」
「すごいよな」
「いつも我儘ばっかりなの」
「応えてあげるよ」
「口悪いし方言直せないの」
「そのままで良いよ」
「……三ツ谷君がいなきゃ嫌なの」
「……オレも」
彼女へ返す言ノ葉がスッと口から出てくる。まるで初めから用意されていたかのように、当然のように。脚本に刻まれた1つの台詞のようにも思えるそれは恐ろしいことに全て本心だった。
三ツ谷の、密かな独占欲という本心。笑えてくるようなものだが、自覚してしまえばそうもいかないらしい。
Aの求める全てを与えるのは自分がいいなんて。
「……ありがと。だいぶ落ち着いたよ」
「なら良かった。……紐、緩んじゃったな」
緩んでほどけかけてしまっている彼女の袴風スカートの紐を結び直す。空模様はとっくに紺色で、花火の打ち上げも間近といったところか。さすがにそろそろ戻らなければならない。
今度はAを離さぬように彼女の手を引き、人混みの中を三ツ谷は歩き始めた。彼女が何かに気づいたことなど知るよしもなく。
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匿名希望:我妻さん(プロフ) - runaさん» ありがとうございます! (2021年8月26日 13時) (レス) id: 590a3884b3 (このIDを非表示/違反報告)
runa - お忙しい中三ツ谷君視点も書いていただきありがとうございます。とっても美味しいです(???) (2021年8月26日 11時) (レス) id: 318f1a5b3c (このIDを非表示/違反報告)
匿名希望:我妻さん(プロフ) - 宿題がっ…………済まない………だと……?数日間更新しないかもしれません (2021年8月23日 19時) (レス) id: 590a3884b3 (このIDを非表示/違反報告)
匿名希望:我妻さん(プロフ) - インパルスって描くの大変すぎません?難しいんですけど…… (2021年8月11日 17時) (レス) id: 590a3884b3 (このIDを非表示/違反報告)
匿名希望:我妻さん(プロフ) - 彼が語る、幸せな世界線の物語。 (2021年8月8日 2時) (レス) id: 590a3884b3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:匿名希望:我妻さん x他1人 | 作成日時:2021年8月8日 1時