検索窓
今日:29 hit、昨日:14 hit、合計:80,487 hit

ページ20

これでAが起きていたら気まずいなと思いつつ、三ツ谷は恐る恐る母の部屋の襖を開ける。敷かれた布団からは静かな寝息。良かった、もう寝ているらしい。彼は安心して部屋に足を踏み入れた。


セーラー服を枕元に置き、念のため彼女の顔を覗き込む。安らかな顔で規則正しい寝息をたてているところ、狸寝入りではないらしい。毎朝毎晩マナルナの寝顔を見ていればなんとなくわかる。彼は布団の前に腰をおろした。


「……可愛いなコイツ」


やんわりとAの頭を撫でる。心なしか彼女の顔が緩んだような気がした。なんだか気持ちが昂ってきて彼女を撫でる手が止まらない。起きてしまったら困るのは自分だというのに。


「ん…………」


Aが軽く唸った。慌てて手を離し、彼女の様子を伺う。少し寝返りをうっただけで起きそうにはなかった。ほっ、と胸を一撫でする。


寝込みを襲おうとするなんて何をしてるんだと急に冷静になった。でもひたすらに彼女が可愛くて思考がおかしくなってしまう。自分を自分ではなくするこの感情のせいだろうか、目からは涙が溢れてきた。


「…………ゴメン、な」


三ツ谷はAの口を自身の手で覆い、そこに口づけた。そのまま名残惜しそうに離す。


この感情の正体がわからないのなら、せめて彼女に尽くそう。彼女が望む自分でいてあげればこの汚ならしい欲もきっと抑えられる。Aは屈託もなく笑ってくれる。自分のためにも彼女のためにも、それが最善だ。


だから、自分に泣く資格なんて有りはしない。三ツ谷は溢れ出る涙を拭い去り、眠る彼女に優しく微笑んだ。


「おやすみ、A」


それだけ言い残して、三ツ谷は部屋をあとにする。これで良いんだ。自分から関係を変える気なんてさらさらない。月に手が届くときは彼女が望んだときだ。そうだろう?


襖を開けて、静かに眠るマナルナを横目に自室に入る。物音1つしない室内には雨音が響いていた。はは、と口から乾いた笑いが溢れたのは気のせいにして布団に身体を沈める。おやすみ、今日の自分。

脈→←*



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (114 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
431人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

匿名希望:我妻さん(プロフ) - runaさん» ありがとうございます! (2021年8月26日 13時) (レス) id: 590a3884b3 (このIDを非表示/違反報告)
runa - お忙しい中三ツ谷君視点も書いていただきありがとうございます。とっても美味しいです(???) (2021年8月26日 11時) (レス) id: 318f1a5b3c (このIDを非表示/違反報告)
匿名希望:我妻さん(プロフ) - 宿題がっ…………済まない………だと……?数日間更新しないかもしれません (2021年8月23日 19時) (レス) id: 590a3884b3 (このIDを非表示/違反報告)
匿名希望:我妻さん(プロフ) - インパルスって描くの大変すぎません?難しいんですけど…… (2021年8月11日 17時) (レス) id: 590a3884b3 (このIDを非表示/違反報告)
匿名希望:我妻さん(プロフ) - 彼が語る、幸せな世界線の物語。 (2021年8月8日 2時) (レス) id: 590a3884b3 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:匿名希望:我妻さん x他1人 | 作成日時:2021年8月8日 1時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。