※リープ前 ページ2
「……つまんない」
Aは暗くて狭い一室で、任務から帰ってくるであろう彼を待っていた。ずっと切っていない髪は腰まで伸び、かつての父のように一本の三つ編みで束ねるようになった。自身の動かない足に心底嫌気がさす。
いつからか東卍は変わってしまった。少なくとも12年前の東卍はこんな風ではなかったはずだ。人質として行動を制限されてからもう何年も経っている。それでも生きて帰ってくるかすら危うい彼を一人で待つ時間はとても慣れやしないほど辛くて。
いっそ死んでしまえたらと何度思ったことか。例えそのまま地獄行きになったとしても、彼の傍にいられるのならそれでいい。監視が少ないことを良いことに、自身の首を絞めようとした回数は数えたこともないくらいだ。
でも彼女は死ねなかった。
「……ただいま…」
「おかえりッ……!」
震えた声で笑い、彼を強く抱き締める。付き合ってからそろそろ12年目を迎える唯一無二の恋人も生きているから彼女は死ねないのだ。
三ツ谷隆。かつてはデザイナーを目指す兄貴肌の少年で、例えるなら月のような存在だった。いつもAを優先してくれるうえに優しくて、不良だからといって怖がる要素なんてどこにもなかった。そんな彼も今ではこの有り様だ。
今日もまた殺害の任務があったようで、着ている服は血塗れ。髪も伸びてしまい昔とは印象が違っている。それでも彼の根は変わらず優しいままだ。だからこそ彼が心配でならない。
初めて殺害の任務をこなした日なんて、彼に歪んだ笑顔が貼りついたままになってしまって大変だった。感情がごちゃ混ぜになり、最終的に笑顔を作ってしまう彼の安定剤になろうと決めたのはその日だったと思う。
「血、凄いよ?大丈夫……?」
「大丈夫、だよ。ほとんど返り血だから」
「そっか……。今日もお疲れ、タカ君」
「……Aは、何もされてないか?」
「今日は何も。だから泣かないで」
「…………無理だよ」
自身の背に強く彼の腕がまわる。昔より背が伸びたとは言え小さいので、彼の腕の中にすっぽりと収まってしまう。
どちらからともなく、2人は互いの唇を重ね合わせた。そのままドサッとベッドに倒れこみ、互いの存在を確かめ合うように舌を絡める。暗い室内に水音と嬌声が響き、次第に彼の理性も薄れていく。
できることなら彼と死にたい。しかしそれは叶えてはならない願い。彼女にできるのも現状維持だけだった。
__あの頃に、戻れたら良いのに。
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匿名希望:我妻さん(プロフ) - runaさん» ありがとうございます! (2021年8月26日 13時) (レス) id: 590a3884b3 (このIDを非表示/違反報告)
runa - お忙しい中三ツ谷君視点も書いていただきありがとうございます。とっても美味しいです(???) (2021年8月26日 11時) (レス) id: 318f1a5b3c (このIDを非表示/違反報告)
匿名希望:我妻さん(プロフ) - 宿題がっ…………済まない………だと……?数日間更新しないかもしれません (2021年8月23日 19時) (レス) id: 590a3884b3 (このIDを非表示/違反報告)
匿名希望:我妻さん(プロフ) - インパルスって描くの大変すぎません?難しいんですけど…… (2021年8月11日 17時) (レス) id: 590a3884b3 (このIDを非表示/違反報告)
匿名希望:我妻さん(プロフ) - 彼が語る、幸せな世界線の物語。 (2021年8月8日 2時) (レス) id: 590a3884b3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:匿名希望:我妻さん x他1人 | 作成日時:2021年8月8日 1時