なな ページ9
歩道横の止まれ標識のポールを握って足を掛け、ポールダンスの様にクルリと回ってから近くの家のレンガ塀に飛び移る。上手くバランスをとって歩きたいところだが時間がないので側転で端まで移動、後その隣のアパートの外階段へ。
別に宛てなくこうして移動している訳では無い。ちゃんと歴とした近道だし、歩くより飛んだ方が早いのは飛行機を見ていたら分かるだろう。あれと一緒だ知らんけど。
階段から2階の廊下を全速力で走り、隣のアパートの廊下の手すりに飛び移って鉄棒の後ろ回りの要領で廊下へと着地。そこからまた廊下を走って、大病院が見えてきたところで見知った後ろ姿を目撃する。
シルバーパープルが目立つ、ベリーショートの中学生。運が良いことに丁度バイクに乗っている上にその病院の前で停車して電話しているところじゃないか。何たる幸運、天は彼女に味方した。
「せんぱーい!三ツ谷先輩!!」
「……は!?っあぁいや、悪ぃな……ちょっと1回切るわ……」
普段はどこか柔らかく下がった彼の目がこれでもかと開かれたのは多分この時が1番だっただろう。電話を切って
屋上の塀の上から自由落下、背中から地面に向けて飛び降りる。上手く壁を蹴ったからビルとの距離はある程度できたはず。だから後は彼の力量次第ということで……と全身の力をフッと抜いた。
信じた通り彼女の身体が地面に叩き付けられることはなかった。上手く落下地点を見定めた彼の鍛え上げられた腕で受け止めてもらえたからだ。安心安定三ツ谷クオリティ。
「Aちゃん……Aちゃんさ、何してんの??マジで」
「寝坊したのでパルクールを……」
「そうかそうかパルクールかぁ……ってなると思うか?オレが受け止めれなかったらどうする気だったんだよ」
「大人しく背骨を折ろうかと」
「あのなぁ……女なんだから自分の身体くらい大事にしろって。朝っぱらからヒヤヒヤしたわ本当」
「それに関してはすいません。急いでたので」
「まぁ仕方ねぇか、もう良いよ乗ってけよ……倉庫までなら乗せてやれるから」
「ご親切にどうも」
「拾っちまったからな……」
鞄にしまった眼鏡を掛けて彼の愛機の後部座席に座らせてもらう。彼の鞄は少し邪魔だがそれごと彼にしがみついて、朝の道路を颯爽と駆けて行った。
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匿名希望:我妻さん - 受験おわた (2022年2月18日 23時) (レス) id: 3afba90bb5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:匿名希望:我妻さん | 作成日時:2021年12月28日 13時