【東卍】好きだから、近付かないで。【柴八戒】 (ページ8)

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ろくページ8

＿＿目覚めは可愛らしい雀の囀りだった。

ん……と唸りながら寝返りをうち、枕元に置いた眼鏡を手探りで取ってかける。クリアになる視界にいっぱい降り注ぐ朝の明るい日差し。大きく伸びをしたら立ち上がって、手元の目覚まし時計を確認s

「は？？」

彼女の普段の登校時間７時30分、現在時刻７時25分。着替えと朝食、エントランスに降りるまででかかる時間、15分。……アラームは６時50分に設置したはずなのに寝過ごした。

これは非常に厳しい。これはどう頑張っても正規ルートを通ったらホームルームギリギリになって面食らうことになる。いやそんなことより早く着替えなくては。

「何で起こしてくれなかったの！？」

叫ぶが返事は返って来ない。そりゃそうだ、兄はAよりも早く登校しないと時間ピッタリに大学につかないのだから。なんてことだ。大急ぎで着替えているせいで眼鏡はズレるし正しく急がば何とやら！

ドタバタとセーラー服のボタンを留めながらダイニングへと向かう。机の上には律儀にもラップの張られた朝食が並んでいて、自身に兄がいたことにここまでの感謝を覚えたことはない。

もうこの際その朝食が冷めていようが致し方ない。寝過ごした自分が悪い。ラップを乱暴に剥がして揃えられた箸を引っ掴み、食物の恵に感謝してからご飯に手をつけた。

美味しい。こんな時なのに兄の料理の美味しさだけは一丁前に感じる。まだ昨日のメールに返事が来たかさえ確認しておらず気が気でないのになんて奴だ。

「ご馳走様、でしたっ……！」

この際バレなければ良いやと充電ケーブルから携帯を外し、指定鞄の中に放り込んだ。そして玄関からいそいそと運動靴を持って来て、ベランダの鍵を開ける。

そう、正規ルートを通りさえしなければ間に合うのだ。着替えと食事でかけた時間は11分。指定鞄を背負える形にしたのが学校側のミス。そして彼女の視力が言うほど悪くなかったことが。

そうでなければ＿＿

「ほっ、と」

眼鏡を外してベランダの手すりへと上がり、宙返りの様にしてそこから飛び降りる。そう、条件さえ揃っていなければ彼女がこんなことをする必要もなかったのに。

３階とはいえ高層マンションだ。下手したら怪我しかねないがこればかりは大きなリスクということで。クルリと上手く体制を変え、エントランス脇の駐車場に受け身を取りつつ着地する。

ここから先は猫の散歩道を通るとしよう。なに、不良がいないなら安全ルートのようなものだ、と。