【東卍】好きだから、近付かないで。【柴八戒】 (ページ7)

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ごページ7

夜、お風呂上がり。肩にタオルを掛け、濡れた髪をそのままに置き去りの携帯を手に取った。ドサッとソファーにもたれかかって電源を入れてみる。画面がつくか微妙なところだったけど、幸いにも数％充電が残っていたようだ。

キッチンから兄が洗っている食器の音が耳に入り、今からすることに多少の羞恥が湧く。ならそもそもリビングで開くなという話だが充電ケーブルは生憎この部屋にしか置いていなくて。

「メール……どうするんだったっけ」

弄り方すらうろ覚えだが昔の記憶を頼りに適当にボタンを押してみる。違う画面が出る度にああ違うお前じゃないと戻して……を繰り返し、ようやくメールの画面にたどり着けた。は良いが、それと同時に大事なことを思い出してしまった。

何送ればいいか全く考えていなかった。

なにしろ初めてのメール。直接の会話とは違うのだ。そもそも現実(リアル)で話したことのない相手に書類以外で文章を書くことなどそうそうないと思う。いきなりどうしろと。

(メールの初め……メールの初めか……)

『メルアド教えてくれてありがとうございます。登録させてもらいました。』

(まぁまずは挨拶からよね……)

そこまで打ち込んでAはため息をついた。我ながら可愛げのない文面。読書に没頭するあまり必要最低限の会話以外をおざなりにした仇がこんなところで出るとは。

正直それ以上に打ち込むことが何も思いつかない。相手は自分に恋文を送ってくれた想い人だというのに、よく分からない感情が邪魔をして"好き"の２文字さえ打ち込もうと思えなくて。

『夜遅くなってしまってすみません。良い夢を』

さっきの２文にその１文だけ付け加えて送信ボタンを押した。あぁもう、社交辞令みたいな文ばっかり。どうせ夜と言うならもっと粋に"星が綺麗な夜ですね"とか浪漫なことを打ち込めたら楽なのに。

これだから友人または同級との言葉のやり取りは苦手なのだ。身内や目上の人、その場限りの相手とはまるで違う。

「もう本当ヤダ…………兄さん嫌い」

「何でだよ！！？？」

「非童貞……彼女持ち……女子力高いしフッ軽コミュ力お化け……ほんっと嫌い」

「僻むな八つ当たるなオマエも充分可愛いんだから」

「そういうところが嫌いなんだよバーカバーカイケメンお兄ちゃん」

「褒めるか貶すかのどっちかにしてくんない！？逆に傷付くわ！！」

ギャンギャンと何か吠えている兄は無視してリビングを後にした。もう寝よう。