【東卍】好きだから、近付かないで。【柴八戒】 (ページ5)

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さんページ5

放課後、部活終わりの下校時間。注意散漫になることを承知の上で読み歩き用の本を持ち、重い荷物を背負って階段を降りる。Aからすればそれもいつものことで、特別変わったことは１mmもない。

タン、と最後の段を降りて短い廊下を歩き、自身の靴箱の所で曲がる。そして靴箱を開けたところで、あれっと声を漏らした。

運動靴の棚の真横に折りたたんだ紙が貼ってある。手を伸ばしてそれに触れてみると、ペリッと案外簡単に剥がれた。どうやらそれは付箋らしい。開くのは後にそれを本の裏表紙に貼り、彼女は靴を履き替えて靴箱を閉めた。

トントンッと踵を入れて玄関を出、周りを見回しつつ校門の外へ。同じ下校方向の生徒はやはり多く、すぐ開ける見込みはない。仕方なくAは本を開き、"堕落論"の続きを読み始めた。

完璧な脇見歩行。しかし咎める者は誰もいない。誰も友人でもない相手に興味などないのだから当然だ。

「あぁ、煩い煩い」

口から出た独り言さえ誰の耳にも留まらない。この辺は不良も多いから聞こえては困るし、その方が有難いけれどどうもつまらないものだ。……そろそろ開けるかな。

読んでいるページに人差し指を挟み、付箋を貼り付けた裏表紙をペラリと捲る。ペリッと付箋を剥がしてゆっくり折り目を伸ばして見ると、正方形の紙面に短い文が綴られていて。

『オレのメルアドです。持ってるか知りませんけど、良かったら』

最後ら辺は字の止め払いが間延びしていて、急ぎで書かれたことが伺える。少し乱れた字で綴られたメールアドレスもどこか筆圧の強さが感じられて、必死だったんだなと。

「……携帯、充電してたかなぁ」

付箋は開いたまま裏表紙に挟んでおいた。誰が書いたものかは確認するまでもなかろう。

挟んでおいた人差し指を抜く代わりに胸ポケットの栞を挟む。もう直自宅マンションのエントランスに着くし、読み歩きがバレたらおかん属性の兄に叱られてしまう。

駐車場を抜けて自動ドアをくぐり、一応宅配ボックスを確認してからエレベーターのボタンを押す。来るまでの間に本を鞄の外ポケットにしまって、来たと同時に乗り込んだ。

他に乗客はいない。少しの揺れと共にエレベーターは上に上がり、３階に着いた所で止まった。夕日の当たる廊下はどことなく眩しい。低い足音を鳴らして自宅のドアへと向かい、ドアノブを下げて引いた。

「ただいま、兄さん」