【東卍】好きだから、近付かないで。【柴八戒】 (ページ4)

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教室で本を読む彼女を見つけた。遠くて何を読んでいるかは分からないけれど、去年には江戸川乱歩の"Ｄ坂の殺人事件"を黙々と読んでいたような人だ。今回もそういう文学作品なのだろう。

「つか次の授業社会だわ〜マジ無理。あの先生bald headだし」

「ンだそれ」

「皆まで言わせんなって。headってついたんだからせめて察してくれよ八戒」

「……あぁ、なるほどな？確かにアイツ英語できねぇらしいし絶っ対ぇわかんねぇなソレ」

「だろ？んじゃまたな〜」

「おーがんばれよ〜」

授業開始時間も近付いて来たので他クラスの友人、見崎(みさき)と別れ自分の教室へと戻る。その道中もAの横顔は目に焼き付いて離れやしなかった。

近付かないで、なんて。文面からこちらに嫌悪がないことは伺えたけれど、やはりその頼み事の真意がよくわからなくて。

(直接聞きてぇけど無理なんだよなぁ……)

携帯番号もそもそも携帯を持っているかも知らない以上、詳しいことを聞くにはまた手紙を書くしかなさそうだ。初めなかなか苦労したのに。それこそ周りを死ぬほど気にするくらい。

キーンコーンカーンコーン

「うわヤベッ！！」

授業開始のチャイムが鳴り出した。教室が中央廊下を挟んで向こう側にあることをここまで恨んだことはない。その広い歩幅を利用してなんとか教室に滑り込んだものの、国語教師の視線は生暖かいものだった。

「……柴、ギリギリセウトー」

「セウトって何！？」

「アウトよりのセーフだからセウトー。まぁサボらなかっただけ及第点だな」

「オレ先生の授業サボったことあったかなぁ」

「さぁどうだろうなぁ？ほら席ついてー、授業始めまーす」

八戒が席についたと同時に国語科の授業が開始した。幸いにも抜き打ち漢字テストはないらしい。普段通り教科書を開いて、筆箱を開いて。

ファイルを開いたところで昨日の手紙が目に入った。動揺のあまりバタンッと勢いよくファイルを閉じてしまい、視線がこちらに向く。それが結構痛くて目を逸らし、我ながら小さな声ですみません、と。

じんわりと耳が熱くなったことなどそっちのけで授業は進んでいった。