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いち ページ3

キーン コーン カーン コーン


授業終了のチャイムが鳴った。少し授業が長引いて数学教師は恭しく挨拶をし、そそくさと荷物をまとめて教室を出ていく。Aもまたそんな教師の姿を見て授業の準備をしまっていた。


次は社会科。教科書とファイルをロッカーから出して机にピチッと置く。その後はいつも通り誰かと話すでもなく本を開く。


坂口安吾、"恋愛論"。有名な作品だ。ライトノベルも良いけれどこういう論文も良いもので、そういう考えもあるのかと思考の幅を広げることができる。まぁこの人の場合いくらか捻くれているのだが……。


愛す、恋す、惚れる、大切といった言葉が持つ雰囲気に人は囚われすぎなのだ。それらは全て同じようなものなのに、意味に区別があるかの様に扱う。一言「好き」と言えば同じものなのに。


「つーくーもちゃん。まぁた難しいの読んでるねぇ」


「そうでもないよ」


「またまたぁ、私なら秒で寝ちゃうよそんな本。白ちゃんは頭がいいんだねぇ」


「文学好きと頭が良いのを一括りにして関連付けるのどうかと思うよ?」


「厳しい(笑)」


苦笑いを浮かべる友人、高野(たかや)の絡みをあしらうのは日常茶飯事といったところか。こんなでも一応友人として見ているだけ有難いと思ってほしい。


はぁ、と本から目を離し廊下の方を見たところで、よく知った顔がクラスメイトの男子と話しているのが映った。青色の坊主頭に高い背丈、大ぶりのピアス。そんな男子生徒は彼くらいだ。


「……八戒君だ」


「ホントだ、いつ見てもカッコいいよねぇ〜……。奥手じゃなかったら惚れてたかも」


「女って皆そう」


「何が?」


「別に?」


Aはまた本へと目線を映した。呆れたというのもあるけれど、目が合ってしまうのはどうも気まずい様な気がして。


一昨日。彼に恋文を貰ったのは、一昨日。返事とも言えぬ返事と頼み事をしたのは昨日。余熱(ほとぼり)が冷めているわけもないだろう。実際彼女自身が気にしているのに。


あ、と彼の声がした。彼女が視界に入ってしまったのだろう。やはり目線を戻していて正解だった。


「どうしたー?」


「あぁいや、別に何でもねぇよ」


嘘つけ。その感じからして思い切り動揺しているんじゃないか。

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匿名希望:我妻さん - 受験おわた (2022年2月18日 23時) (レス) id: 3afba90bb5 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:匿名希望:我妻さん | 作成日時:2021年12月28日 13時

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