【東卍】好きだから、近付かないで。【柴八戒】 (ページ18)

今日:2 hit、昨日:3 hit、合計:6,984 hit

じゅうごページ18

はぁ、と一息着いたところで、視界の端にチラつく黒い何かに気が付いた。気が抜けたからだろうか。何だろうと隣のベンチに視線を向けると、黒くてチープなトートバッグが立てかけるようにして置き去りにされている。

誰かの忘れ物だろうか。普段の彼女ならそのまま放置するが、今回ばかりはどうも興味を惹かれ、ゆらりとそちらに足を運んでしまう。

恐る恐るといったようにトートバッグの口を開く。すると薄めの冊子が３枚……いや、４枚か？同じサイズの物が揃ってしまわれていた。その時点でマズイものを見てしまった気がして止まない。

だがオドオドしながら覗き込んだ表紙は想像しているような物ではなく。真っ新だが手書きで文字が綴られ、黒枠のみで構成されたシンプルな物。それはパッと見た感じ＿＿

「台本？」

思わず手に取って文字を追う。タイトルを書く欄には『舞台の上で、』と書かれており、サブタイトルは無記入。記名欄は何か書いてあったようだが、マッキーか何かで塗りつぶされていた。

他の物も同じように『あの子の腕に、』『クラスメイトに、』とそれぞれ言葉が続くようなタイトルが書かれ、記名欄は真っ黒になっている。

「物語系……？エッセイには見えないし」

拾い物であることさえ忘れ、立ったままそれをパラパラとめくっていく。三人称が"彼"と"彼女"で統一され、小説というよりはプロットのようだ。気になる点はといえば、やけに修正が多いことと名前の部分だけ塗りつぶされていること。

わざわざプロットを書く上で名前の塗りつぶしなんてどういう意図があるのだろう。未定なら書けなくなるほど塗りつぶすことないだろうし、キャラクター設定だってろくに読めなくなる。

(となると、これはそもそも誰にも見せるつもりがないってことなのね)

そう考えると文字通り見てはいけないものを見てしまっていることになるが、知的好奇心と探究心はそれすらも跳ね除けてしまうものらしい。

既に見た３冊を元通りトートバッグの中にしまい、残っている一冊をそっと手に取った。タイトルは『好きだから、近付かないで。』で、他の物とは違い青い背表紙をしていたから後回しにしていた物だ。

これも同じように修正まみれなのだろうか、と指を滑らせて表紙を開こうとしたところで。

「あれ、何してんの？」

喧しいくらい聞き慣れた声がAの鼓膜を震わせた。