【東卍】好きだから、近付かないで。【柴八戒】 (ページ15)

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じゅうにページ15

やがて全てのチャイムが鳴り止んだ。ぬるい秋風が頬を撫でて、体の芯から熱を奪い去ろうとしているのを感じる。

今日の部活はいつも以上にヘマをしたと思う。針を指に指す回数は１年の時に比べて劇的に減ったものの、縫い目がかなりガタついてしまった。あれほど不格好では教える側の三ツ谷も彼女の知らぬ間に頭を抱えただろう。

運動靴を履き替え、まだ部室に残っているのであろう後輩達に背を向け一歩踏み出した。やはり校舎の外は寒い。自宅の中でスパッツ一枚ができるのはそれだけ自宅の暖房設備が優れているからだったのか。

(ハロウィンのこと……聞きそびれた)

ふとそう思い出して、鞄の中にしまった携帯の存在を嫌でも意識してしまった。10月31日、アメリカのお盆ことハロウィン。

俗に言う"リア充爆発しろ"的なイベントの１つだが興味が無いわけではない。その日は兄に合法的に高級チョコレートを強請れる。そんな日にわざわざ女っ気もなく殴り合いなんて何が楽しいのやら。

(明後日か……)

そういえば明後日は日曜日か。不良に休みなんてないんだな。何となく、そうしみじみと思ってみたが気がかりなのは想って止まぬ八戒のこと。

最近は中学生同士の喧嘩・抗争でも物騒な話が耳に入る。刃物で刺された、関係の無い親族にまで手を出したなどと警察のご厄介になるケースが増えているのだ。

彼が、見知った彼らがその当事者にならないとは誰が保証できよう。不良に恋をするというのはそういった危険も視野に入れるということ。

荷が重い。申し訳ないが重たすぎる。兄妹の末っ子として蝶よ花よと育てられてきたAにはとても抱えきれない。好きな人のためなら何でもできるなんて夢幻に過ぎないのだ。

(だって好きに道理も理由もないから)

今日はこの面倒くさくて重たい想いを引っ提げてさっさと帰ろう。心配したところで自分にできることはない。下手に出しゃばれば足枷になるだけ。

月曜日、また会えるだろうか。

廊下と教室を隔てる壁一枚を挟んでいても、そこにいてくれるだけで良い。いてくれればそれが幸せなのだ。

ああそういえば、多少の距離がある方が愛おしいと聞くことがある。手に入れてしまうと愛情が薄れるとか何とかで。

しかし本当に大切なものは失ってから気付くとも言うだろう。即ち、愛情が薄れるのではなくそれが当たり前になり意識しなくなるだけなのではなかろうか。

だから距離があるとこんな風に想いが積もっていくのだろう。