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*大好き ページ2

「アン、この辺りの音程が低くて歌いづらいの。ちょっと高くしてほしいんだけど、いい?」



 そう言うと、間髪入れずに「わかりましタ」と返される。曲作りに熱心になっていたアンは、一週間ほど自室に篭っていて、今日になってようやく出てきたのだった。その手には恐らく完成したであろう楽譜が握られており、あたしは音程の確認をしてほしいと言われ、彼女の素晴らしい創作に目を通していた。あたしは他のイカよりもやや声が高く、低い音で言葉を紡ぐことはできない。一目見て明らかに低いという箇所は無く、流石アンね、と胸の内で呟く。
 ほんの一、二箇所あった気になる点をアンに見せると、彼女は頷いて再び自室の中に消えた。また数日ほど篭ってしまうのかと思えば、一時間程度で意気揚々と出てきた。



「 ……流石ね、これならちゃんと歌えるわ。レナのことよく分かってるじゃない」



「ありがとうございまス」



 アンは目に見えて嬉しそうに顔を綻ばせ、耳をゆらゆらと動かした。彼女の喜怒哀楽はとても読みやすく、頭に付いている耳の動きを見れば一目で分かる。ふふ、と微かに漏れる笑みを眺めながら、ふと思い立って口を開くいた。



「あんたって、レナのこと大好きよね」



 どうして今更そんなことを、と言いたげにピンク色の目を瞬かせながら、彼女は首を傾げた。アンがあたしに信仰にも似た感情を抱いていることは分かっている。初めて出会った日の彼女の熱を帯びた目を見た時、私は今までに無いほど嬉しくて、陶酔するような気分になったことを覚えている。



「レナの″声″が好きなの?」



 何でもないように口にしたが、これは随分と前、アンがあたしに抱く感情に気付き始めた辺りから思っていたことだった。アンはあたしの声だけが好きなのか、と。
 私がアンの創り出した曲を言葉にするたび、彼女は目を宝石のように輝かせて聴き入っていた。『レナさんは私の全てなんです』と、そう言われるたびに心から喜び、またそれと同時に微かな憂いを抱いてもいた。
 アンは一瞬黙り込み、二回ほどの瞬きを挟んで、言った。



「声が好きでス」

*→←*夢



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作者名: | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2021年9月3日 17時

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