忘れたかった人【髙橋藍】 (ページ5)

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藍side ページ5

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「あそこで会おう」

これで伝わるのはきっと…いや絶対俺たちだけ。

そもそもその場所自体全く知られていない所だし、

そこを思い出の場所として使っていたのも俺達だけだろう。

あの日、春高で優勝をした翌日。

俺は早く会いたかった。

互いに優勝を祈ってた、大好きな人に会いたくて仕方がなかった。

1時間前に送られてきたLINE。

「まってるね」

その一言だけ。

それでも喜んでるのは伝わってきたし、あっちも早く会いたがってるだろうと思った。

春高決勝前に来た通知には

【全国優勝】高梨Aを中心とする東山高校が優勝！

と書いてあって、彼女の部活が優勝したと知らせてくれた。

俺が決勝で勝てたのはこれのおかげもあると思う。

俺も勝たなきゃって…。

走りまくってやっと着いたそこには、ベンチで眠る可愛い姿が。

そっと横に座り、起こさないように体をこちらへ。

こてん、と俺の肩に頭を預ける彼女は、可愛すぎた。

よく眠れているようだ。

微かに聞こえる寝息は規則正しく、

何度頭を撫でても、頬を触っても起きない。

俺にとっては最高の時間だった。

夢を見た。

彼女が離れていく夢。

どれだけ追いかけても追いつけない。

俺が止まれば彼女も止まるのに、追いつけない。

手を伸ばしても届かなくて。

何度呼んでも振り向いてくれなくて。

今までで1番辛い夢かもな…。

そう自覚した瞬間、目は覚めた。

目の前には夕日が落ちる景色が。

そして横を見れば、俺より一足先に起きた彼女が夕日を眺めていた。

「ごめん…俺も寝てた」

『ううん、さっき起きたばっかり！ごめんね来てくれたのに…』

「全然！よく眠れたみたいで何よりです」

最高の時間だったからいいよ…なんて言える訳もなく。

『いい夢見たんよ！藍くんがずっとそばにいてくれる！！』

真逆の夢を見ている。

これになにか意味があるのかないのか……変な感覚だけが残る。

「そうなん？この先もずっとそうならええよなぁ……」

夕日に目をやりながらふと、プロポーズのようなことを言った。

赤面する彼女を抱きしめたくなったけど、我慢した。

明日、Aに会う。

もう一度、この手で触れる資格をくれるだろうか…。

思い出してしまったあの夢を見てしまいそうで、

あまりよく眠れなかった。