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そこから話がさらに広がる。
「お母さんが少なくともそうやったんやな」
「はい。大学から離婚するまで住んでたらしくて」
「まさか地元全くおんなじ人と東京で会えるとはな」
「ですね。記憶はないんですけど」
「3歳までやもんな」
「はい。父とも会ってないし、顔も何も知らなくて」
うんうん、と優しく頷いてくれた向井さんは、桜に目を移す。
「綺麗やな…」
その呟きで、向井さんと同じように改めてじっと見つめる。
「こっちに来てもう3年ぐらい経つし、通勤で毎日のように通りますけど、ちゃんと見たの初めてです」
「何のお仕事してんの？」
.
夜遅くに帰って、朝早くに向かう。
課されるノルマに何も感じないように仕事をしてる。
ちゃんとやらなきゃ、他の人に迷惑がかかるって何度も言い聞かせて。
「Aさん？」
「…あ、普通の会社員です」
「大学卒業してからずっと今の会社？」
「はい。…てか、来週の土曜ぐらいに、桜満開になるみたいですよ」
ニュースで見ました、と仕事のことを考えたくなくて話題を変えた。
「ほんならさ」
向井さんと瞳が重なる。
「その日の朝、またここで会わへん？」
「…はい！」
嬉しい思いが溢れだす。
向井さんも大きく頷いた後、
「せやから一応、連絡先教えて？」
「はい、もちろんです」
そうしてスマホを開けた時見えた文字に芽生えた罪悪感。
お母さんから7件不在着信が入っていた。
一旦それを置いて、向井さんと連絡先を交換した。
「いけましたか？」
「うん、いけたで」
画面を見つめて笑顔になっている向井さんに目が入った。
「じゃあ、この辺で」
「気をつけてな」
「ありがとうございます。また、土曜日に」
「うん」
お互い手の振り方がぎこちなくて、それにお互い笑って私は帰った。
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作者名：キキララ
| 作成日時：2024年2月1日 16時
