ふたり(橙) (ページ23)

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「よかったですね。康二もすごく嬉しそうにしてたんで」
「そうなんですか」

嬉しそうにしてた、それが私にとっては何より嬉しかった。

岩本さんが注文したものが運ばれてきた時、私はふと相談のようなものをしていた。

「コンクール、エントリーされるんですよね？向井さん」
「はい。本人から聞いたんですか？」
「はい。今年が最後のチャンスだってことも。それで、」
「ん？」
「向井さん、そっちではどうですか？いつも通りですか？」

岩本さんは首を縦には振らなかった。

「これだと思う写真に出会えてないって悩んでます。最後だし、意識すんなって言うほうが無理な話だってのは俺も分かっているんですけど」
「そうですか…」
「Aさんに対してはどうですか？」
「分からなくて。邪魔しちゃいけないと思って連絡控えてるので」
「え、そうなんですか？」

驚く岩本さんに、はいと頷く。

彼は何か考えるような仕草を見せて、「Aさん」と私を呼び掛ける。

「康二には、そういう遠慮はしないでください」
「え？」
「あいつめちゃくちゃ寂しがり屋なんですよ。Aさんとは付き合ったばっかだし、まだそこまで見えてないかもしれないですけど」

あの時、私もだけど、

向井さんも中々電話を切らなかったことを思い出した。

「今の状態だと、康二が追い詰められる気がするんです。
俺は、康二のカメラマンになる夢が絶たれること以上に、康二が写真やカメラを嫌いになってしまうことが嫌なんです」
「岩本さん…」

「なので、康二と話したり、どこか出かけたりしてほしいんです。Aさんとの時間があるほうが、康二にとっても絶対いいので」

私との時間。

その言葉が頭から離れなかった。