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「課長」
朝礼後、上司にとある書類を差し出す。
「え？」
「来月いっぱいで辞めさせてください」
就業規則には1ヶ月前までに申し出ると書かれていた。
先輩をはじめ同僚たちの視線も感じる。
「Aさ、まだ3年目だよね？」
上司の言葉に頷いた後、鼻で笑われる。
「なのに辞めるって、え、そんな根性ないの？」
「…そうですね」
そんな返事が返ってくると思っていなかったのか、上司の目の色が変わる。
「そんな根性のない私なんで、退職させてください」
鼓動はドキドキというよりゾクゾクに近い。
上司が退職届に手を伸ばす。
でもそれは押し返される。
「辞めたら皆に迷惑かかるよ？分かるよな？」
迷惑がかかる。皆に。
そのまま行き渡ることはなかった。
.
そこから数日後。
取引先との打ち合わせを終えた夕方、私は会社に戻ろうとしていた。
辞めると同僚の前で言ってからも何もなかったかのように接してくる上司に、色々な諦めが改めてついていた。
戻るの嫌だな。
今日はいつ家に帰れるんだろう。
「Aさん？」
その時、名前を呼ばれた。
私を呼んだ人は、近くのカフェから男性と出てきていた。
「向井さん」
「やっぱAさんやん！」
「お疲れ様です。すごい偶然ですね」
「ほんまやなあ」
「知り合い？」
そう聞いた向井さんの隣の人は、彼が働く写真店の店長さんで岩本さんというらしく、互いに自己紹介をした。
「お２人お仕事ですか？」
「そう。仕事で中々うちの店まで来れへんお客さんのとこにこっちから出向いてたんよ。ほんでこれから戻って別の撮影あって」
「そうなんですね」
楽しそうな向井さんに少し羨ましくなっていると岩本さんが、
「良かったら撮影見に来られます？」
「えっ？」
「偶然会えたのも何かの縁ですし。あでも、お仕事ですよね」
「少しだけ、お邪魔してもいいですか？」
そう返すと、もちろんと岩本さんが微笑む。
向井さんも驚きながらも、「見られんの緊張するなあ」と笑顔を見せた。
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作者名：キキララ
| 作成日時：2024年2月1日 16時
