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「お待たせ」
沈黙が続く私たちを気遣ってか、マスターは言葉に反して早く飲み物を持ってきてくれた。
そして私に目線を送って、裏にはけてくれた。
.
「…あの」
この状況にしたのは私。だから私から口を開く。
「この前の…"もう恋愛はしないって決めてる"って、
その意味を知りたくて」
「…」
「それだけ言われるのは、納得できません。だから、意味を話してほしいんです。
話してくれたら、ちゃんと身を引きます」
私なりの覚悟だった。
話してくれるまでいつまでも待つから。
少し間が空いてから、阿部さんと漸く目が合った。
「僕…」
彼がスマホを私のほうに向けてくれる。
そこに映っていたのは、
今と髪型が違う阿部さんと、一人の女性との写真だった。
「5年前…彼女を事故で亡くして」
「えっ…」
「信号無視の車にはねられたんです。でもその時の彼女は、
…会いたいって言った僕の元に向かう途中だった」
涙を流す阿部さん。
「僕が、会いたいなんて我儘言わなかったら…彼女じゃなくて僕が会いに行ってたら、こうならずに済んだのにって、」
「…」
「ご家族にもどう説明したらいいか分からなかった。ただ泣いて、謝るぐらいしか出来なかった」
嗚咽する阿部さんを見て、私の瞳も潤む。
「僕の彼女は彼女だけなんです。
彼女の存在が僕の中から消えることはない。だからそんな状況で別の誰かと付き合うのは、色んな人を傷つけることにしかならないから…」
.
「…阿部さん」
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作者名：キキララ
| 作成日時：2023年10月20日 17時
