#9「忘れられなくてもいいから」×Green ページ33
(You side)
手動の少し重いドアを引くと、カラカラっと音が鳴る昔ながらの喫茶店。
少し前に私はここの常連になった。
私が選ぶ席は、奥から1個手前。
1番奥の席は、他の常連客の人で埋まっていたから。
そしてその人は今日もいた。
「阿部さん」
呼ぶとその人は、読んでいた本から顔を上げ「あっ」と笑顔を見せる。
「お疲れ様です」
「お疲れ様です」
そう言葉を交わしてから、すっかり顔見知りになったマスターにホットの紅茶を注文してから席に座る。
彼はいつもカフェラテを頼んでいる。
でもそのラテに1つミルクを加えていることすら心を掴まれる。
「急に寒くなりましたね」
ふと言葉をかけられ、ドキッとしながら「そうですね」と返す。
「阿部さん寒がりそうです」
「分かります？10月から羽毛布団使うんですよ」
「え！冬大変ですね」
「毎年よく乗り越えてるなと思います」
へへ、と笑う彼。
私はこの人が好きだ。
社会人になって、色んなことを考えず、ただ純粋に誰かを想うようになるなんて想像していなかった。
.
そうして紅茶も飲み終わって、ゆっくり時間が流れた時。
「じゃあ、僕お先に」
阿部さんが私にそう言って立ち上がり、お会計をしている時。
察知能力の高いマスターが私に目配せをして、私も席を立つ。
「Aさん？」
「私も帰ります」
「じゃあ一緒に帰りましょ」
優しい笑顔と共に繰り出された言葉に、心の底から微笑んだ。
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作者名：キキララ
| 作成日時：2023年10月20日 17時
