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彼は確かに距離が近いけど、
そこにもちゃんと線は引いていて。
女の子には特に不用意には触れないし、だからといって冷たいどころか誰に対しても温かい。
その温かさを私には全面に見せてくれていることも、もう分かっていた。
「Aせーんぱい」
部活終わり。
また、向井くんが声をかける。
「今日こそ一緒に帰りましょ？」
「あー、寄るとこあるから」
「そうっすか。じゃあまた誘います！」
「…ねえ向井くん」
振り向いた向井くんは、私から呼ばれたことに驚きを隠せずにいる。
「なんで、そんなにめげないの？」
「え？」
「ずっと私断ってんのに」
向井くんは「うーん…」と照れたように頭を掻く。
「…好きやからに決まってます」
ストレートな言葉だった。
そしてさっきよりも低い声で紡がれたことが心拍数を上昇させる。
「それ以外ないですよ。誰かに取られたら嫌なんで」
漸く、分かった。
どうして涼に告白できないのかが。
「…一緒に帰る？」
「はい、…えっ！？」
驚いて大声を出す向井くん。
「いいんですか！？」
「うん、ごめん寄るとこあるって嘘」
「それは全然いいんすよ！嬉しい…」
「…話したいこともあるし」
.
向井くんとの帰り道。
私のほうが緊張してる気がする、と思ってたけど、
「…向井くん？」
「わっ！すいません、何か言いました？」
「いや言ってないけど…緊張してる？」
「そんなぜんぜ…してます！」
隠すのを諦めた彼に思わず笑った。
「あの、先輩」
「ん？」
「…話したいことって何ですか？」
緊張が戻ってきた。
出てくるのは前置きにしか使えない言葉ばっかりで。
.
「…それ、
俺からでも言えるやつですか？」
「…え、」
「とりあえず言ってみていいですか」
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作者名：キキララ
| 作成日時：2023年10月20日 17時
