34 ページ34
「...じゃあ、私以外に振った人も、それが理由なんですか？」
「うん。本人たちには言ってないけど。家族も知らないし、誰かに話したのはAが初めて」
「何で私に...？」
「Aも俺みたいに、大多数に当てはまらない事情があって辛い経験してるから。俺とは全然種類が違うし、一緒にされたくないって思うかもしれないけど」
「先輩...」
阿部先輩の告白で、私の気持ちの何かが吹っ切れた。
「他に素敵な人いるとか、無神経なこと言ってすみませんでした」
「ううん。謝らないでよ」
先輩は優しい言葉を掛けてくれた後、やっと飲み物に手を伸ばした。
目の前にいる人は異性愛者じゃないかもしれない、その認識は私も持っているし広がっている。
ただ、この人は恋愛感情やそれ以上のものを抱かない人かもという認識はまだない。
私も阿部先輩がたくさんの人からの告白を断っていると聞いた時、先輩には別に好きな人がいると思い込んでいた。
私たちのそういう思い込みに、阿部先輩は今もずっと苦しんでいるんだろう。
「でもまだ、家族に話す勇気はないんだ。...がっかりされたくないなって思ってて」
「...阿部先輩」
「ん？」
「余計なお世話かもしれないですけど」
私も一口ジュースを飲む。
「皆に分かってもらおうとか、変わらなきゃなんて思わなくていいですよ。
誰かの言葉とか反応で変えれるものでも、変える必要のあるものでもないから。先輩の価値はそこで決まりません」
思う全てをぶつけたら、阿部先輩の瞳に大粒の綺麗な涙が帯びてきて、それはあっという間に零れ落ちた。
「...ありがとう。本当にありがとう」
「先輩...」
しっかり私にも伝染する。
振られた直後は泣かなかったのに。
先輩にその気がないのがどうしようもないしやっぱり悲しいのと、彼の苦しみへの共鳴が、私のこの涙には混ざっていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 205人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：キキララ
| 作成日時：2022年12月1日 17時
