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13. 甘え上手 ページ17

「…、…………A」


優しい声に誘われるように
微睡みから目を覚ます

窓の外は既に濃紺に染まっていて
遠くから後輩達の声が聞こえてきた

まだぼんやりと霞む視界に映る見慣れたシルエット


「ったく、いつまで寝てるつもりだ」


軽口を叩くその声は穏やかで
大きな手が霧野の頬に触れる


「顔色、だいぶ良くなったな」


その冷たさが心地良いのか目尻を下げる霧野

気の抜けた表情に
灰崎は大袈裟に溜息を吐いてみせた


「その顔、絶対他の男に見せんなよ」


「…?」


「その間抜けな面」


「はいはい」


きゅっと鼻先を摘まれた霧野は小さく笑って
ゆっくりと上体を起こす

明瞭になった視界に映るのは
穏やかな表情の灰崎だ


(自分だって間抜けな顔してるくせに)


「練習終わった?」


「ああ。1年が花火の準備してるから呼びに来た」


「…ふふ」


「あ?何だよその明らかに失礼なこと考えてる顔は」


「いや、協調性皆無だった灰崎が立派に副キャプテン務めてることに感動しちゃって…」


「うるせぇ。…あといい加減その"灰崎"ってのどうにかならないのかよ」


言葉の意味が理解できなかったのか
灰崎を見上げたまま小首を傾げる霧野

だから、と勢い良く前置きをした灰崎は
驚く程小さな声で言うのだった


「 ____ いい加減、名前で呼べよ」


「…いや、声ちっさ」


薄暗い室内でも分かる位には
その褐色の肌が赤く染まっている

バツの悪そうな表情で頭を搔く灰崎

その様子があまりにも可笑しくて愛おしくて
霧野は目を細めた


「凌兵」


「 ____っ、待て、」


「呼べって言ったじゃん」


「お前には羞恥心ってものがねえのかよ」


「ある、…………っ」


返事をし終える前に
逞しい腕に抱きすくめられる

一瞬のうちに距離を詰められ
反射的に目を瞑る霧野の鼓膜を
悪戯な声が揺らした


「声ちっさ」


ぱっと目を開いたその瞬間
熱を帯びた紅い眼が目前に迫る


(その顔、狡い)


心臓をぎゅっと掴まれたような感覚に
霧野は再び目を閉じた

14. 油断大敵、思春期男子 (*)→←12. 緊急事態だから仕方ねえだろ



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しろ(プロフ) - アインツバルさん» ありがとうございます! (2019年4月8日 16時) (レス) id: ce9889e8a9 (このIDを非表示/違反報告)
アインツバル - 最高でした!!! (2019年4月5日 16時) (レス) id: db0b681609 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:しろ | 作成日時:2019年3月1日 21時

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