問題児が2年生になった件について【星章学園】 (ページ11)

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10. 恋は失うものじゃないんですページ11

「行かなくていいのか？」

気遣いが滲む口調で問いかける白鳥

2人の背中を眺める水神矢の眼差しは
いつも以上に柔らかい

忘れ物を取りに戻ってきた2人が目にしたのは
霧野を抱き寄せる灰崎の姿だった

「ああ」

「後悔しないんだな？」

「…それは分からないな」

苦笑いを浮かべる水神矢に
白鳥は溜息を吐く

この男は人が良すぎると何度思ったことか

彼と共に過ごしてきた2年余り
彼が強欲になった所は見たことがない

「お前のその優しさは時として自分自身を苦しめることになるだろうな。特に恋愛において」

「褒められているのか貶されているのか微妙だな」

「…お前は優しすぎる。もっと自分の気持ちを大切にしてやれ」

苦虫を噛み潰したような顔で言う白鳥

彼とは対照的な表情で水神矢は口を開いた

「俺は、霧野が好きなんだと思う」

「それなら＿＿＿＿」

「だが同じ位、灰崎のことも好きなんだ。キャプテンとして、あいつらのことは誰よりも見てきたつもりだ。最初は目も当てられない位反発し合ってたのに、いつの間にか"中学サッカー界最強のツートップ"とまで噂されるようになった。霧野が灰崎の協調性を成長させ、灰崎が霧野の心を支え成長させた。誰よりも強いあいつらだからこそ、もっと上を目指していく為に互いの存在が必要なんだよ」

「…そんな綺麗事、建前に過ぎないだろう」

「やはりお前に嘘は付けないな」

白鳥の言葉は最もだった

痛い所を突かれたようで
水神矢は観念したように笑う

細められた瞳は悲しげで
それでもって清々しかった

「目で追うようになって、気付いたんだよ。灰崎の隣に居る霧野が1番輝いているって。きっと灰崎のことが好きなんだろうって、感じてしまったんだ」

「…水神矢」

白鳥の表情が僅かに緩む

やはりこの男は人が良すぎると

しかしそんな所も彼の長所なのだ

「失恋なんて当人の思い込みだ。相手を思い続けている限り、恋を失うことはない」

「深いことを言うんだな」

「…佐曽塚の受け売りだ」

「何だ、そういうことか」

いつかこの馬鹿みたいにお人好しな男に
春が来るようにと

白鳥は静かに祈るのだった