【MHA】不老不死は恋をする。 (ページ8)

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第7話前と今ページ8

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こんな私も、一回目の人生では沢山恋をした。

中学二年の時、サッカー部で一番背の低かった今井君。いつも周りには人が居て明晰な頭脳も持っていた。そんな彼の笑顔に惹かれた。

高校三年の時に隣の席でいつもマスクを身に着けていた佐々木君。彼とは大学時代までお付き合いして、でも就職するのを機にお互いに支え合うのが難しくなって、話し合った結果別れることになった。
私の、唯一の恋人だった。

クールだけど私のミスをしっかり叱って時には手伝ってくれた会社の先輩、佐田さん。彼は背が高くて肩幅も広い。その風情に最初は近寄り難かったけど本当は温かくて、少し不器用なだけの優しい人だった。

…不気味なくらいの記憶の鮮明さに笑ってしまいそうだ。
前の世界の思い出はほぼ100％頭の中に残っているけど、私が恋し、愛した人達の思い出はその中のどの思い出よりも重みがある気がした。

「好きな人、まず作りたいと思えないっていうかさぁ…」

前(・)は「自分は早死にしそうだな」とか思って生きてたんだけどねぇ。と、呟く。

恋することが嫌だとかトラウマがあるとかそういう訳じゃない。恋する意味が無くなってしまったのだ。

「誰を愛しても永遠はない、って知っちゃうともう欲が湧いてこない、みたいな」

そう。実際にNO.1ヒーローとして世界中に名を知らしめたオールマイトも、もう何年も前に私を置いて逝ってしまった。
最高のヒーローで、最高の父親だった彼が、あの大きな体で私のことを包み込んでくれることはもうないのだ。

そんなことは不可能になってしまった。

ビルに反射して見えていた月が歪んで、自分が涙を流していることに気がついた。そういえば父の前でもよく泣いた。

1番覚えているのは、あの事件で宿敵と闘った際に彼が本当の姿を公にした時でも、彼を見送ったときでもなく、ある日の夕方だった。

それはまだ小学生にも達さない幼稚園生の頃、いくら経っても個性が発生しない私が、父と病院に行った帰り道。

「無個性」という事実と共に「不老不死」だと診断された私は「死ねなくてもいい」と言って父の手を握って夕飯のことを考えていた。
でも父は「我慢なんてAにはまだ早い」と言うのだ。途端に涙が溢れ出てきて私は父の手を握りながら長いこと泣いた。
歪む世界の中で私の頭を撫でる父の温かい笑顔が、頭から離れない。

懐かしい記憶に笑みは零れなかった。寧ろ更に目が熱くなり、鼻がつんとする。

もう、あの温もりは───