【MHA】不老不死は恋をする。 (ページ29)

今日:1 hit、昨日:0 hit、合計:29,964 hit

第28話目覚ページ29

.

「A！」
「…っ」

目を開けると、そこはかっちゃんの家の寝室だった。私は彼の匂いのする布団の中にいる。何故ここにいるかなど考える余裕もない。ただ目の前にかっちゃんがいるという安心感で押しつぶされてしまいそうだ。
父のように居なくなって欲しくない。ずっとそばにいて欲しい。そう思った時にはもう既に彼に手を伸ばしていた。

「かっちゃん…っ」

少し体を持ち上げて彼を両腕の中に収める。上手く力の入らない腕でたしかに彼を引き止めている。どちらのか分からない心臓の音と優しい温かさに、少しずつ気持ちが落ち着いていく感覚がした。
それと同時に強い安心感に包まれ、涙が零れる。

「何泣いてんだよ」
「…うん…っごめん…っ」

どうやら私は夢を見ていたらしい。
父の命日が近づくこの時期になると、たまに熱にやられるのだ。そして夢を見る。その度にかっちゃんが看病してくれる。今回もそれなのだろう。

かっちゃんの首から、熱が伝わってくる。それが心地よくて、顔を擦り付けた。そしたら心做しか彼の身体がこわばって、でもそんなの気にせずもっとぎゅっと抱きしめる。今までは、ただそれだけでよかった。

だけど、何かが物足りない。多分、今の私はどこかのネジが足りてない。だから、歯止めが効かなくなっていた。

かっちゃんの首筋に、唇を押し当てる。薄い皮越しに感じる温もりが気持ちよくて、肩、鎖骨と色んなところに押し当てる。ゆっくりと唇を離し、彼の顔を覗き込む。それは火照っているように見えた。

…熱、移したらどうしよ。そんなことを考えながらも、私は彼の頬に手を添えて、その唇に、唇を重ねたのだ。

触れるだけのキスだった。
1回だけ重なって、少しして離れる。彼の不満げな顔を見て、私も同じ気持ちになった。だけど、今はもう彼を抱きしめる力もギリギリだった。
不意にするりと解けた私の腕に即座に気づいたかっちゃんは、優しく私の腰を支える。

「寝とけ」
そう言って軽く抱き抱え、私を枕のところまで少し運んでくれるかっちゃん。その手のひらを自分の頬に当てる。ゴツゴツしてるけど気持ちがいい。

「かっちゃん…すき…」

今なら、全て素直に伝えられる気がした。