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『きれー。僕らで汚しちゃうのが申し訳ないんだけど』
Aとさとみは手を背中で縛って腰まで海に浸かっていた。
電車から降りて少し歩いたところに海はあった。
冬でシーズンオフなせいか誰もいない。
「…冬だし人いないし良いだろ」
『超非常識ー』
「さっき調べたら監視員いないから全部自己責任だってさ」
口角を吊り上げたさとみは言った。
「俺たちのも事故、な」
『お前本当やってるわ。ま、いっか。僕もう止めねえからな』
同じく口角を上げたAはさとみに向き合った。
腰から下の感覚はもうほとんど消えていて、お互い顔が青白かった。
『ね、最後にこんなこと言うのずるいって分かってんだけどさ』
「やめろよ?」
『え』
「俺だってお前に言いたいことあったけどさ。こんなクソみたいな人生、最後までクソでいこうぜ」
初めてAとしっかり目を合わせて、さとみは本気で言った。
「ここまで来て心残りなんか作っちまったら死ねなくなるだろ」
『…そだね。じゃあこれだけ』
Aは一気に顎まで浸かるような場所に行って叫んだ。
『海が綺麗ですね…!』
「1人で死なせるわけねえだろ。死ぬまで一緒だバカ」
さとみはAに聞こえないほど小さい声で呟き、Aがいる場所に行った。
「星が綺麗ですね」
『っえ…』
Aもさとみも波にさらわれた。
さとみが波に飲み込まれる最後に見たものは、Aの濡れた髪の毛だった。
好きだった。その言葉を伝えられなかったことがさとみの唯一の心残りとなった。
Aの大粒の涙が海と同化し、呼吸が途絶えた直後。さとみの呼吸も途絶えた。
海は2人の命を奪ってもなお、綺麗なままだった。空には昼間なのに綺麗な星がひとつ見えていた。
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作者名:める | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/n15a76543b1
作成日時:2024年1月11日 7時