捨てられない恋【ars K.N】END. (ページ39)

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「やっぱ最高ね。智くんの淹れるコーヒーは」

　翔ちゃんは幸せそうな声で言った。

「ねぇねぇ翔、ここのチーズケーキも美味しいんだよ」

　その隣でまた、Aも幸せそうな声。
　"あれから"半年が経った今、二人は夫婦となってここに居る。

　海外勤務から解放された翔ちゃんは毎週末こうしてAを連れて俺の店まで来てくれていた。

「A、式が終わってから甘いもの食べ過ぎじゃない？太っちゃうよ」
「だってずっと我慢してたんだもん…」
「なに、そうだったの？ドレスのために？」
「もう！笑わないでっ」
「まぁまぁ、二人とも」

　…本当に本当に、羨ましい。
　高校時代から想い合っているこの二人が。

　こんなに可愛い嫁さん手に入れた翔ちゃんが。
　…ってまぁ、一度は奪われてしまったけど。

　本当さ…あの時はどうなるかと思ったよ。
　………ん？
　誰に奪われたかって？それは…

「お待たせ、Aさん」

　相変わらずカメラを肩に提げたこの若造だ。

「悪ぃなカズ、今この人チーズケーキ食べてっから」
「ごめん、すぐ食べ終わる！」
「いいよ無理しないで。ゆっくり」

　半年前のあの日、カズに翔ちゃんの連絡先を聞かれた時はとんでもねぇ修羅場が勃発するんじゃねぇかって心配で心配で仕方なかったけど、教えて正解だったみたいだ。
　それにほら……

「二宮くん、この子は甘やかしちゃダメ」
「ごめんね二宮くん！急ぐっ…」
「もう…別にいいのに」

　なんかこうやって三人楽しそうにやってるし。
　結果オーライでしょ。

「…ん、終わった！」
「よし。じゃあ行こっか」

　じっとAのことを待ち続けていたカズは席を立ち、扉を開けた。
　今日はAが写真のモデルになる日らしい。

「あ、二宮くん」

　店を出ようとしたその背中を呼び止める翔ちゃん

「時間厳守で頼むよ。…約束ね」

　指定した時間が何時なのか俺は知らないけど、翔ちゃんはカズにそう念を押した。

　対するカズはくいっと口角上げて、何も言わずにAの手を引いて店を出て行ったんだ。

　時間厳守か…俺からも頼むよ、カズ。