捨てられない恋【ars K.N】END. (ページ32)

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「あーもう…こっち」

　仕方なく彼女の手を取って、とりあえず扉の中に引き入れる。
　扉が閉まると雨の音が遠くなって、何も言葉を発さないAさんが余計に目立った。

「どうしたの」
「ごめ…なさい…」
「あなたに謝られる覚えはないけど」

　まだ気持ち伝えてないし。

「Aさん、泣いてる…？」
「…」
「彼と何かあった？」

　その質問に彼女からの返答はなかった。

　冷たそうなその身体…タオルを持ってくるよりも先に俺は、ただただ涙を流すその頬に右手を伸ばして、

「冷たい…」

　手の平でそっと、自分の熱を伝わせた。

「二宮…くん…」

　俺の名前を呼んだその唇に、抑えていたものが込み上げてきて

「少しだけ…このままでいさせて…」

　俺の右手を包むように握ってきたその両手に、理性のストッパーは意図も簡単に外されてしまったんだ。

「ずっとでもいいよ」

　そう言うと、Aさんは驚いたように顔を上げて。…やっと、目が合った。

　唇が重なり合うまでは一瞬で、押し付けるようなそのキスに彼女は抵抗を見せなかった。

　一度のキスじゃ足りなくてその首に手を回すと、Aさんの縋るような目。

「もう…無理。帰さないから今日…」

　こんな風に額を合わせたのは、これで２回目だ。
　鼻先同士がくっついて、混じり合う吐息。
　俺と彼女の唇は互いを求めた。

＊＊＊＊＊

「………後悔してる？」

　朝方、俺は白く滑らかな彼女の背中に問いかけた。返事はかえってこない。寝てるのかな。
　それとも、考えてんのかな。

　どちらにせよ、こんな事聞くなんて最低だ。
　自分でもわかってる。…けどさ。

「俺は…してないから」

　どうしたって心は奪えなかった。

　雨で冷えたアナタの身体が熱を取り戻す瞬間とか、アナタの奥に滑らせた時の生温かい感触とか…全部全部忘れないくらいに抱いたはずなのに、

「…」

　彼女の心は、振り向いてはくれなかったんだ。