捨てられない恋【ars K.N】END. (ページ27)

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「立派なカメラだね」

　俺から４席ほど離れた席に座っていたその人は、コーヒーを一口すするとこちらへ顔を向けた。

　まさか出会って数分で声を掛けられるなんて思ってなかった俺は、

「…ども」

　目も合わさずに軽い会釈。それに続いてマスターが、

「なぁ翔ちゃん、いつまでこっちいんの？」

　その人の視線を俺から外させた。

「２、３日で向こう戻るよ」
「Aとはもう会ったの？」
「まだ。これから会いに行くよ」

　…これから、か。
　いいな…俺だって会いたいのに。

「Aは知ってんの？翔ちゃんが来てること」
「んーん。驚かせようと思ってさ」
「うは。驚いた顔が目に浮かぶ…」

　……うん。目に浮かぶよ。
　驚いて、嬉しそうな顔で彼を迎え入れるAさんを。

「じゃあ…行くわ」
「え、もう？」
「早く行かなきゃ寝ちゃうから、あの子」
「あぁ…だな。つかもう寝てんじゃね？」
「えー、ピンポンして起きるかなぁ」
「起きなかったらまた俺んとこ来いよ。相手しちゃる」
「うん、そうさせてもらうよ…じゃあ、また。少しでも顔見れて良かったわ」

　スマートに席を立って、スマートにコーヒー代を払って、スマートに店をあとにするその後ろ姿。

「………どうだ、諦めついたか？」

　マスターの言葉がグサリと刺さった。

「は？つくわけないじゃん…」

　確かに、あのルックスやオーラには心が後ずさりをするほどの魅力があった。
　Aさんともめちゃくちゃお似合いだと思う。

　……だけど。だから、なに。
　諦めるなんて出来るわけない。

　突然のご本人登場に俺は少しヘコんでいるけど、別にこの恋が終わったわけじゃない。
　想いだって伝えてないし、まだまだこれからだ。
　……けど、やっぱり

「はぁ…」

　今は少し…ヘコませて。