捨てられない恋【ars K.N】END. (ページ20)

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「撮った写真、今見れる？」

　Aさんは俺のカメラに興味を見せた。

「うん、見れるよ。見る？」
「見たい！」
「んじゃ、ここ座ろ」

　そう言って砂浜に腰を下ろした瞬間、俺はハッとして。

「ごめん、服汚れるね」

　場所の配慮が足らなかったと、立ち上がろうとしたのに。

「ううん？平気だよ」

　Aさんは何の躊躇もなく俺の隣に座った。

「撮ったの見せて？」
「え、あ…うん」

　砂浜にこうして二人並んで座ってるなんて。
　映画のワンシーンみたいなこの空間…誰か写真に収めてくれないかな。

「ここ押していけば、順番に見られるから」

　カメラをAさんに手渡す。すると彼女は膝の上でそれを大事そうに抱えて、

「わぁ…すごい二宮くん、綺麗に撮るねー…」

　一枚一枚、じっくりとディスプレイ画面を眺めていった。だけど、自分の写ってるものはすぐに飛ばしてしまうAさん。

「あっ！なに飛ばしてんの」
「だって恥ずかしいんだもん！」

　困ったように笑った。

「そんなこと言ってたら、もうずっと飛ばしっぱなしよ？」
「えっ」
「そこら辺からAさんしか撮ってないもん」
「うそぉ！」
「ほんとー」
「もう…いつの間にこんな…」

　Aさんがまた困ったように笑うから、俺も同じように困った笑顔を返す。

　そして俺は自分のお気に入りの一枚を見せるフリをして、彼女に対する想いを口にした。

「俺ね…このAさん好き」
「え…」

　"好き"という言葉にAさんが特別反応したのかは、そのリアクションだけでは分からなかった。……いや、たぶんきっと気付いてないな。だって、

「えー…これー…？」

　相変わらず困った笑顔でいる。
　やっぱり、「この」はいらなかったかな。
　「Aさんが好き」って言えば良かった。

　だいたい、そのカメラに収められているAさんは全部"お気に入り"だ。

「好き」と言いたいからって…これはくだらない遠回りだった。