捨てられない恋【ars K.N】END. (ページ17)

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「なんで待ち合わせ場所がウチなんだよ」

　コーヒーカップを磨きながらマスターは呆れた声で言った。

「だって、この方が健全でしょ？」

　目の前には、彼女を待つまでの一杯のコーヒーがゆらゆらと湯気を立たせている。

「健全ってお前…ただAを安心させたいだけだろ」

　それは半分…当たっていた。
　だって、彼女にとって俺はまだ出会って間もない１人の男子学生。

　学祭ではあんな風に仲良く接してくれたけど、もしかしたら警戒されてる可能性だって無きにしも非ずってやつで。

　だから待ち合わせするにはこの店以外に考えられなかったんだ。

「安心させることの何が悪いんだよ」

「別に悪いとは言ってねぇ」

　マスターは平べったい目で俺を見た。
　どうやら警戒してるのはAさんじゃなくてマスターの方らしい。

「そんな目で見ないでよ。別に変なことするつもりないし」
「変なことをするしない関係なく二人で会うってことが…」
「あ、Aさん」
「んぁ？」

　店内に、カランと軽快に響くドアベル。

「もう来てたんだ！」

　 Aさんは俺と目を合わせると、爽やか過ぎる笑顔を放った。

「おはよう、二宮くん」
「おは…」
「おはよーー」

　割り込むマスター。
　なんだよ、その不機嫌な声。

「智くん…？」
「ほどほどにな。ほどほどに」
「ほどほど？」
「…」

　マスターは目だけで何かを訴えた…けど、Aさんには全く伝わっていない。

「わかったよマスター。ほどほどにね？」
「二宮くん？なにが…」
「まぁまぁ」

　あまりAさんに余計なことを考えさせたくはなかった。

　俺はテーブルにコーヒー代を置いて、まだ頭の上からハテナが消えていないAさんの背中を軽く押した。

「いってらっしゃい」

　マスターの圧のある声。
　安心してくれ。
　変なコトは何もしない。たぶん。