捨てられない恋【ars K.N】END. (ページ2)

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「んー、２点。」

　予想通り、その人は眉間にシワを寄せた。

「マスター、ちゃんと見てくれてないでしょ」
「見てるって。俺の目をナメんなよ？これでも一応アーティストなんだからな」
「ただの自己満でしょ」
「あ？これのどこが自己満だっつぅんだ？」

　じぃちゃんの代からやっているらしいこの小さな喫茶店のマスター、大野智は店内をぐるりと大きく見回した。

「いや、ほぼ自己満でしょうよ…」

　俺もぐるりと見回した。
　壁のいたるところに掛けられた絵。

　窓際やカウンター席の端にはホコリのかぶったよく分からない造形物。

「カズ、お前にこれほどのもんが創れるか？」
「いやそういう意味じゃなくてさぁ…」

　センスがなくて自己満足って言ってる訳じゃない。

　この乱雑に置いてる感じが自己満足で終わらせてんじゃねぇかって話で。

　俺はこの人の創るものが大好きだ。
　個展でもやってちゃんとお金取ればいーのにって、本気でそう思ってる。

「ところでカズ、これは酷いぞ」

　話はまた、俺が撮った一枚の写真に戻る。

「えー、そうかなぁ。綺麗じゃない？観覧車越しの夕日」
「どうせまたバカみたいにシャッター切ってたんだろ」
「…」
「丸わかりだよ。この一枚からは何も感じねぇ」

　カウンター席の向こう側で呆れたように笑うマスターは、数あるコーヒー豆の中から３種類ほど手に取ると「大野ブレンドだ。飲め」なんて言って少し濃い目のコーヒーを俺に出した。

「それ飲んだらいい写真が撮れるぞ」
「はいはい」

　自分の才能に酔いしれるこのおっさんを無視して、俺はもう一枚の写真をこっそり鞄から取り出した。

　時計台の下で、一人の男性を幸せそうな眼差しで見上げる一人の女性。
　この人達はおそらく、いや、確実に恋人同士で。

　その光景に、…というよりはこの女性に？俺は心を奪われてしまったんだ。

「つかこれ…盗撮じゃん…」
「ん？何か言ったか？」
「あ、いや別に。…ごちそーさま」

　マスターが淹れてくれた大野ブレンド。
　それは喉の奥にまだ苦みが少し残っていて。

　なんとなく、胸が苦しくなった。

　そうだな…この感覚を言葉で表すなら、"終わったばかりの恋の味"ってところ？

　今の俺にぴったりだ。