捨てられない恋【ars K.N】END. (ページ1)

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その日も夢中でカメラのシャッターを切っていた。

　観覧車越しに見る夕陽がすごく綺麗でさ。一体何十枚撮んのってくらい。

　入園無料の小さな遊園地にカメラ持った野郎一人がぶらぶらしながら、特にアトラクションに乗るわけでもなくただひたすらに写真を撮る。

　少し疲れたらベンチに座って。自分が撮った作品の中から一番優秀なものを厳選。
　その作業がまた、楽しくて。

「今日…全部いいじゃん」

　ちなみに俺は、最近カメラを持ち始めたどこにでもいる大学生だ。

「いやでも…まだだなぁ。こんなんじゃあの人はまだ認めてくれない」

　あの人っていうのはオレが最近行きつけにしてる喫茶店のマスターで。

"んー…２点。"

　腕組みしながらいつも眉間にシワを寄せるんだ。別に偉い写真家でもなんでもない癖に。

「よし、行くか」

　この時。何気なく見た時計台。
　時刻は午後５時、五分前。

　針の位置をなぜか目に焼き付けた俺は、そのまま視線を下に落とした。その瞬間、

「あ…」

　目の前に入ってきた光景に時が止まって。ベンチから起こそうと思った腰も起き上がらない。

　ただ。ただその時オレは、無意識にカメラを構えて。この指で一度だけシャッターを切ったんだ。