3 ページ34
・
俺は自分の心臓のことなど忘れて夢中で走っていた。
気づけば自分の背丈ほどまである草むらの前に立っていた。
「っ、はぁ、」
乱れる呼吸は整えようにもなかなか整わなくて
左胸を抑えながら片手で草を退かしていく。
頼むからどうか、この先に居てくれ…
「、っ康二！」
目の前を塞ぐ最後の草に手をかけたときに見えたのは
紛れもなく今1番探していた大切な弟の背中。
少し小さくも見えるその背中はどこか懐かしくも感じて
思わず笑みが溢れる。
「やっぱり、ここにいると思った…っ、」
「亮平兄ちゃん…！」
涙でぐしゃぐしゃになった顔をさらにくしゃくしゃにして駆け寄ってきた康二の顔が目に入った瞬間
ふっと全身の力が抜けてその場にしゃがみ込んでしまった。
大丈夫、安心しただけ。
未だバクバクと高鳴る心臓にそう言い聞かせる。
「…んっ、ごめん、ごめんなあ」
「なんで謝んのよ」
ぎゅっと抱きついて離れない康二にこの胸の音が聞こえないように
そっと手で押さえつける。
こんなとき兄ちゃんたちだったら両手で康二を抱きしめられるんだろうな。
「俺、亮平兄ちゃんに無理させてしもた」
「そんなことないよ」
「うそや、顔色悪いもん」
涙で見えていないと思っていたはずなのに鋭いとこを突かれて少し動揺する。
隠すことには慣れたはずなのに
どうしても罪悪感に苛まれる自分が少しもどかしい。
「っ、帰ろ、みんな待ってるよ」
けど結局は認めたくなくて
心配かけたくなくて
差し伸べてくれたその手を払ってしまうのはある種の癖だと思う。
眉尻の下がったその顔に無理やり作った笑顔を投げれば
納得はしていないようだが渋々立ち上がって
支えるようにして俺も立たせてくれた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1630人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「SnowMan」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
みみずく。(プロフ) - コメント失礼します。よければ翔太くんメインの話が読みたいです。 (2021年1月4日 21時) (
レス) id: 23fb9957a6 (このIDを非表示/違反報告)
かき - コメント失礼します。難しいかもしれませんが、ぜひ黄色さんメインをお話も拝読したいです。よろしくお願いします！ (2020年12月22日 12時) (レス) id: edbdc5a7da (このIDを非表示/違反報告)
和 蓮 .(プロフ) - よければ蓮くんメインのお話が見たいです。 (2020年12月22日 7時) (レス) id: 888c904e00 (このIDを非表示/違反報告)
なお(プロフ) - コメント失礼します。桃さんメインのお話がみたいです。 (2020年12月21日 18時) (レス) id: f09ccc8f4c (このIDを非表示/違反報告)
おりょうり(プロフ) - ききさん» リクエストお願いします！舘様メインであべなべが看病するおがみたいです！内容は作者様におまかせします！ (2020年12月21日 17時) (レス) id: 809f062d73 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：きき | 作成日時：2020年6月13日 15時
