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｢こんばんは｣
自ら出た当たり障りのない挨拶は“こんばんは”と同じように返ってきた
カウンターにいるマスターは作業を止めることなく穏やかに“顔見知りではあるよね？”と私達に視線を向ける
｢そうですね ジョンハン先輩とは現場でご一緒することが｣
｢ははっ ジョンハンの顔があからさまに気まずそう｣
ウィンウィンへの誕生日プレゼントを受け取りにきたレザーショップ
微調整を待ちながらうたた寝をしていた私が気配を感じて意識を浮上させた数秒後の場面が冒頭になる
綺麗な顔に浮かんでいる小さな笑みが作り笑顔だなんて
｢ほとんど同期のAさんに先輩って呼ばれて少しビックリして｣
｢活動年数は近くてもご挨拶程度の関わりしか無くて｣
苦笑いに変わったジョンハン先輩を他に呼ぶ方法なんてあるのだろうか
そんなことを考えながら立ち尽くしている先輩に空いている隣のスペースを立って“よろしければ”と示せばこれまた僅かに目が見開かれた
｢商品を受け取りに来られたんですよね？｣
｢うん｣
｢まだお時間をいただくと思うので｣
人目につかない隠れ家のようなお店は当に閉店時間だ
そんな場所でこんな時間に同業者と出会うとは思わなかったと先輩が座らないなら私が立ち上がろうかと思った矢先
｢Aさんはスケジュール終わり？｣
気まずさが限界突破したらしく1人分空いていたソファーのスペースが埋まり間髪入れずそんな質問をもらった
私も逆の立場ならそう尋ねただろう
｢はい ジョンハン先輩もですか？｣
｢うん 全体での練習終わり｣
お疲れ様ですと伝えれば“Aさんもお疲れ様”と労われて不思議な気分
プライベートな空間と時間に交わすそんな会話
至って普通なんだろうけど私にとっては異常事態だ
｢同業の方にお会いするとは思いませんでした｣
｢俺はAさんに会うとは思わなかった｣
｢美容室以外では初めての経験です｣
あからさまに驚いた表情をされ笑ってしまったし“同業者の友達っている？”と単刀直入に聞かれて更に大きく笑ってしまう
そんなこと真っ向から聞いてくるのはメンバーぐらいだから
｢メンバー以外いないです｣
｢何で？｣
｢プライベートにする仕事の話が嫌いで仕事の愚痴は勤務時間内にメンバーが聞いてくれるから？｣
導いた答えは簡潔だねと謎の笑いを生み出した
拳2つ分程の距離で肩を震わせている人をよそに理由を再び考えてみようか
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作者名：nami | 作成日時：2024年1月21日 20時
